全国の地方都市には多くの課題があるが、人材不足は重要課題の1つだ。その解決策として参考になりそうなのが、東急と毎日みらい創造ラボが伊豆半島を舞台に始めた人材マッチング事業。2021年6月に開催した2泊3日のビジネス合宿では、自社の課題を提示した地元企業9社のうち7社が首都圏からの人材とのマッチングに至った。例えば熱川プリンスホテルでは女性向けの企画や情報発信の充実のため、コンテンツ編集などの経験がある2人の女性を「公式アンバサダー」として迎え入れた。

発端は観光MaaS事業

そもそも今回の人材マッチング事業のきっかけは、東急が2019年4月1日から伊豆半島で始めた観光型MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)事業「Izuko」にあった(図1)。専用のスマホアプリを開発、そこに移動手段や飲食店、観光案内情報などを集めたものである。「スマホだけで伊豆を旅できるという世界観を打ち出した」というのは、同事業と今回のマッチング事業を手がけた東急 交通インフラ事業部MaaS担当課長の森田創氏だ。

図1 「Izuko」のコンセプト スマホだけで伊豆を旅できる世界観を目指した (出所:東急)
図1 「Izuko」のコンセプト スマホだけで伊豆を旅できる世界観を目指した
(出所:東急)

取り組みを通じて分かったことは、多くの地方都市と同じように伊豆でも人口減少が著しいこと。そしてもう1つIzukoユーザーから浮かび上がってきたのが「関係人口」と呼ばれる層の人たちである。ユーザーの属性を分析すると、例えば週3日伊豆に滞在し東京とを行ったり来たりする、いわゆるテレワークやワーケーションの人たちが数%を占めることが分かった。新型コロナウイルスの感染が広がる以前はまったく見られなかった層である。

ユーザーの一例は20歳代のプログラム開発者で、仕事とプライベートのバランスを考えながら生活している。自家用車を持っておらず土地勘もないため、移動を含めて生活の全てをスマホで完結させたいと考えている。

このような関係人口は地方都市にとっては新たな収入源となるありがたい存在。この関係人口を増やし、さらに地元の企業や活動に何らかの形で参画できる機会があれば、地域経済が活性化するのではないかと森田氏は考えた。その機会を生み出す手段が人材マッチングというわけだ。

MaaS事業から得られたデータだけでなく、森田氏自身の人的ネットワークからも人材マッチングのアイデアには手ごたえがあった。森田氏が三島近郊に住み伊豆でのMaaS事業を進めるなかで多くの地元経営者と知り合った。彼らの話を聞けば、

「相談相手がほしい」

「コロナ禍において補助金の申請書を自ら書く時間も書き方を教える時間もなく、部下に任せたら申請期限が過ぎてしまった」

「事業においてやるべきことが多いが、プロジェクトをマネジメントできる人がいない」

「デジタル人材を求めている」

など様々な悩みを抱えていることが分かった。

伊豆側が人材不足に悩む一方で、こうした期待に対しフルタイムではなく副業や兼業の形で応えられる人材が東京にはたくさんいるように感じた。「大企業の社員の一定数は、こうした課題を簡単に解決できると思った」(森田氏)。終身雇用制が崩れる中で、多くの人が将来のキャリアの可能性を広げようとしている。東京から約2時間あれば行けるという伊豆のアクセスの良さも、「伊豆の企業で働く」ことに対して心理的な抵抗感が少ない好条件とみた。