日本で初めて金が採れた町は地域包括ケアシステムのトップランナー

宮城県涌谷町は、日本で最初に金を産出した「産金の地」として知られる。天平21(749)年には、この地で発見された黄金900両(約13kg)が朝廷に献上され、奈良・東大寺の大仏造営に大きく貢献した。東大寺と涌谷町の交流は1200年を経た今も絶えることなく「平城京天平祭」では涌谷町のお米奉納が毎年行われている。

日本初の産金地である涌谷町の「黄金山産金遺跡」黄金山神社の鳥居
日本初の産金地である涌谷町の「黄金山産金遺跡」黄金山神社の鳥居

また、涌谷町は「地域包括ケアシステム」のトップランナーとしても全国的に有名だ。1988年に設立された「涌谷町町民医療福祉センター」を拠点として、町では医療と病気予防、福祉、介護のサービスを一体的に提供する取り組みが進められている。

「涌谷町では、国民健康保険病院を中心に、民間も含めたサテライト方式で施策を展開しており、医療費も県平均を下回る傾向にあります。地域の人々が安心した生活を送るためにも、地域での医療提供は自治体として必要な取り組み。それだけ財政負担も大きいですが、今後も続けていきます」と涌谷町の遠藤釈雄町長は語る。

涌谷町の遠藤釈雄町長
涌谷町の遠藤釈雄町長

このように、自治体病院を中核とした地域包括ケアシステムの充実に取り組む一方で、涌谷町では歴史遺産を活かしたまちづくりにも力を注いでいる。「2019年5月に、涌谷町と宮城県の気仙沼市・南三陸町、岩手県の陸前高田市・平泉町が、『みちのくGOLD浪漫―黄金の国ジパング、産金はじまりの地をたどる―』というストーリーで日本遺産の認定を受けました。今は5つの自治体が一体となって、“金”をテーマとした観光資源の開発を進めています。過去3年間、文化庁の補助を受けて開発を進めてきましたが、いよいよ今年度からが正念場。修学旅行のコースとしてのPRもしながら、本格的な観光産業を起こしたいと考えています」(遠藤町長)

3.11東日本大震災を経て非常時の通信インフラと電源確保の重要性を痛感

一方で、涌谷町では地域を守るための取り組みとして、防災対策にも力を入れている。3.11の際には、町は12日間の断水と7日間の停電に見舞われた。災害対策本部では携帯型発電機で当座の電力をまかなおうとしたが、電気が復旧する前に燃料が底をついた。当時、町内には防災行政無線設備もなく、町民への発信もままならない状況だったという。

「町民への連絡は、広報車による放送で行いましたが、走行しながらの放送ということもあって『何を言っているのかわからない』との苦情が寄せられました。そこで、2012年に無線を整備し、エリアメールやホームページも活用して情報発信を強化。2022年3月16日の福島県沖地震のときには、頻繁に情報を発信したので『エリアメールがうるさい』と、町民から苦情をいただいたほどでした」

現在、涌谷町では、各課ごとに優先順位を付け、災害対応を効率的に進めるためのマニュアルを作成中だ。「3月16日の地震では、全地域が断水に見舞われ、その状態が20日午前9時まで続きました。他の自治体からも応援を受け、給水作業を進めましたが、もし広域水道施設の情報を入手できていたら、復旧前夜には7割以上の人がお風呂に入れたはず。情報収集と発信の重要さを、あらためて痛感させられました」と遠藤町長。「万一災害が発生しても、情報さえあれば、町民は落ち着いて行動できるし、生活の不便さを和らげることもできる。今後も引き続き、通信インフラと電源の整備に力を入れていきたいと考えています」と抱負を述べた。

官民連携で最新テクノロジーを活用した防災対策に取り組む

神奈川県川崎市は、繁華街や工業地帯、住宅地、タワーマンション街など、多様な顔を併せ持つダイバーシティのまちである。サッカーの川崎フロンターレやバスケットボールの川崎ブレイブサンダースといったプロスポーツクラブを擁し、また、コンサートホールや市のフランチャイズオーケストラである東京交響楽団をはじめ、豊富な音楽資源を活かした「音楽のまちづくり」にも注力。さらに、環境技術や再生可能エネルギー、量子コンピューターをはじめとしたディープテック分野の研究開発など川崎が世界をリードする取り組みの発信など、こうした施策が功を奏して、人口は増加しており、東京都区部を含めた21大都市の中では平均年齢が最も若いのが特徴だ。

一方で、これまで大規模な災害被害とは無縁だった川崎市でも、近年は被害が拡大する傾向にある。

令和元年東日本台風(台風19号)では、多摩川の水位がこれまでに経験したことのない高さとなり、その影響で内水氾濫が発生。川崎市に初の激甚災害指定をもたらした。武蔵小杉のタワーマンションの一部が甚大な被害を受けたことは記憶に新しい。

「武蔵小杉の住民など被害に遭われた地域の皆様と、コミュニケーションを取りながら対策を進めてきたところです。多摩川を管轄する国交省は排水ポンプ車を配備していますが、川崎市は新たに4台導入しました。原因となった排水樋管は電動化するとともに、水位計やカメラなどの観測機器を設置して、訓練も実施して有事の際に備えています」と、川崎市の福田紀彦市長は語る。

ゲートの改良や遠方制御化、観測機器の設置を実施した多摩川の排水樋管
ゲートの改良や遠方制御化、観測機器の設置を実施した多摩川の排水樋管

川崎市で想定される災害被害は、風水害だけではない。多摩丘陵に位置する川崎市内の傾斜地には、土砂災害警戒区域は762、土砂災害特別警戒区域は370区域に上る。こうした区域の災害被害を最小限にとどめるべく、川崎市はNECと協定を結び、人工衛星の画像によって崖の変動を観測する国内初の実証実験をスタート。民間と連携しながら最新テクノロジーを活用することで、防災への取り組みを強化している。

「首都直下地震や南海トラフ巨大地震は、いつ起きてもおかしくない状況ですし、最近は“100年に1度”といわれる大規模な風水害が、毎年のように日本各地で起きています。本市では、被災された市民のニーズに迅速かつ柔軟に対応できるよう、令和元年度に改正災害救助法の救助実施市の指定を受け、今年度、総務企画局にあった危機管理室を、市長直轄の危機管理本部に格上げして、各局区との連携を深めながら体制を強化しています」(福田市長)

川崎市の福田紀彦市長
川崎市の福田紀彦市長