電子部品と繊維の巨人がタッグ

人の動きを抗菌力に変える次世代繊維――それがピエクレックスである。もともと村田製作所が研究を重ねてきた技術をベースにしたもので、2020年4月には繊維商社大手の帝人フロンティアとの共同出資により合弁会社、ピエクレックスを設立。同社が研究・開発・販売を手がける。

ピエクレックスはとうもろこし由来のポリ乳酸(PLA)を原料とする。PLAの持つ圧電性に着目した新素材であり、繊維が伸縮することで微弱な電流が流れ、電気の力で繊維内外の細菌を抑制するメカニズムを持つ。またPLAは2000年代のエコブームの折、生分解性プラスチックとして注目されたことから、カーボンニュートラルを可能にするSDGsの側面からもメリットがある。

PLAは圧電性を持ちながらも、とうもろこし由来で地球に優しい素材(出所:ピエクレックス)
PLAは圧電性を持ちながらも、とうもろこし由来で地球に優しい素材
(出所:ピエクレックス)

一般的に村田製作所と聞いてまず思い浮かべるのは電子部品だろう。特に有名なのが積層セラミックコンデンサ。スマホや自動運転に欠かせない「電子産業の米」と呼ばれる重要電子部品で、世界4割の圧倒的なシェアを誇る。その村田製作所がなぜ繊維に取り組んだのか。ピエクレックス代表取締役社長の玉倉大次氏に話を聞いた。

――ピエクレックスはどのような経緯で誕生したのでしょうか。

ピエクレックスの源流になった技術は村田製作所が開発を進めていたものです。PLAにひずみを与えると高い圧電効果を示すことは30年前から知られていました。それをヒントに村田製作所の現執行役員である安藤(正道氏)が中心となり、センサやアクチュエーターへの応用を目指し、2007年に圧電性ポリ乳酸の研究開発に着手しました。

当初はフィルムをひずませることでセンサへの応用を進めていましたが、研究の中で安藤が目をつけたのが繊維でした。PLA繊維の圧電効果により、菌を抑制することを発見したのです。その抗菌特性を活かし、新規事業として「電気の繊維」を確立できないかと考えたのが始まり。それが2017年のことです。

ピエクレックス代表取締役社長の玉倉大次氏。装着しているのが第一弾製品のピエクレックスマスク(写真:小口正貴)
ピエクレックス代表取締役社長の玉倉大次氏。装着しているのが第一弾製品のピエクレックスマスク
(写真:小口正貴。以下、特記のないものは同)

――1年前、電子部品の巨人である村田製作所が帝人フロンティアと組んで繊維の会社を作ったと話題になりました。両社が合弁会社を設立した背景は?

村田製作所は原材料から生産ラインまで手がける徹底した自前主義が特徴です。その文化があったため、自社で繊維を開発しようと考えたこともありました。しかし、繊維のことを知れば知るほど「これは無理だな」と思い知らされました。何しろ繊維業界は網目のように複雑に絡み合っていて、門外漢の村田では服のサンプル1枚を作ることさえ非常に難しいからです。

そこで、安藤がフィルム関連でお付き合いのあった帝人グループにお声がけして、業務提携の形でスタートしました。とはいえ新規事業の創出だけにとらわれると、どうしても技術オリエンテッドに陥ってしまい、繊維の肌触り、耐久性、価格など製品としての汎用性が疎かになりがちです。世の中に抗菌性繊維が山のようにある中で、ビジネスとして成立させるためには合弁会社を立ち上げて加速させる必要があった。それがピエクレックス社設立の背景です。