2021年7月17日20時50分01秒、伊予灘を震源とするマグニチュード5.1、震度4の地震が発生した。気象庁は20時50分17.2秒のタイミングで「緊急地震速報」第一報を発表。一方、大分県にある半導体企業の拠点では、20時50分13.6秒のタイミングで自前の地震速報が発動。ここに地震の主要動であるS波が到達して震度3.49の揺れが生じたのは20時50分25.6秒だった。

つまり、同拠点では気象庁の緊急地震速報よりも3.6秒ほど早く地震発生を知り、実際に揺れるまで12秒の猶予時間を確保することができたのである。この地震速報を可能にしたのが、ミエルカ防災が提供する地震速報サービス「ユレーマス」だ。

地震の揺れには、P波とS波の2種類がある。初期微動を伝えるP波はおよそ秒速7km、揺れの本体である主要動を伝えるS波はおよそ秒速4kmだ。気象庁は地震計を設置した観測点のうち2カ所でP波を検知したときに地震発生の判定を行って緊急地震速報を出す。2観測点での検知が必須となっているのは誤判定を防ぐためだ。

気象庁の地震計は全国1000カ所以上設置され幅広い範囲をカバーしているが、それぞれが平均して30~40kmほど離れていて密度が低い。したがって、2観測点でP波を検知してから震源や規模を推定していると、どうしても数秒のタイムラグが生じてしまう。

深海プレートを震源とする海溝型地震であれば、内陸部にS波が到達する前に緊急地震速報が出せるが、陸地の活断層で発生する直下型地震は深度が浅く、P波とS波の到達時間の差が短い。そのため、直下型地震では緊急地震速報が揺れの発生までに間に合わなかったり、猶予時間をあまり確保できなかったりするケースが多くなってしまうのだ。

一方、ユレーマスの場合は利用者のビルや工場といった建物や敷地に3つの地震計とコントローラー、ローカルサーバーから成る「基幹ユレーマス」というシステムを設置する。

ユーザー施設に地震計3台とコントローラー、ローカルサーバーで構成する「基幹ユレーマス」を設置(出所:ミエルカ防災)
ユーザー施設に地震計3台とコントローラー、ローカルサーバーで構成する「基幹ユレーマス」を設置
(出所:ミエルカ防災)
ユレーマスの地震計(出所:ミエルカ防災)
ユレーマスの地震計
(出所:ミエルカ防災)

ミエルカ防災の代表取締役副社長・潮田邦夫氏が言う。

「基幹ユレーマスでは3つの地震計のうち、ふたつがP波を検知したら地震と判定します。地震計の位置、密度が特定の建物や周辺地域に特化しているため、より早い地震判定が可能になるのです。さらに、この基幹ユレーマスのネットワークを利用することによって、より早く精度の高い地震情報を伝達することができるようになっていることが、私たちのサービスの一番大きな強みになっています」

基幹ユレーマスは設置拠点を中心にした直径50kmの円の圏内でP波を検知する。冒頭に紹介した半導体企業のケースでは、冒頭の拠点よりも震源に近かった県内別拠点に設置してある基幹ユレーマスが先にP波を検知、その地震情報を冒頭の拠点に伝達したことで、猶予時間12秒の確保につながったのだ。

機械を安全に止めるまでの“2秒”

この半導体企業がユレーマスを導入したきっかけは、2016年4月16日に発生した熊本地震だった。同社の熊本拠点が被災し、製造ラインの精密装置を破損。復旧まで3カ月半を要する事態に陥った。

この熊本地震も直下型だったため、激しい揺れがあった地域で緊急地震速報が伝えられたのは、揺れの直前か直後。被害を抑えるために対応をする猶予時間はまったくなかった。同社はこれを教訓とし、再び大きな地震が発生したときの備えとして、より早く地震発生を知らせるユレーマスの導入を決定したのである。

「私たちへのオーダーは“2秒”でした。2秒の猶予時間があれば希少な製造装置を安全にストップして、被害を最小限に食い止めることができる、と」(ミエルカ防災 営業本部長・柳澤繁氏)

熊本地震を引き起こした震源は布田川断層帯。より早いP波検知を可能にするネットワーク構築のため、基幹ユレーマスを熊本拠点の敷地内のほか、防災を呼びかける交渉を行って布田川断層近くにある西原村役場と熊本県庁の計3カ所に設置した。

その結果、2020年7月17日に熊本地方で地震が発生した際、震源にもっとも近かった熊本県庁のユレーマスが地震発生から2.4秒後にP波を検知、そのデータを共有することで熊本拠点では揺れまで2.3秒の猶予時間を確保できたのである。この地震は大きな地震ではなかったため、実際に生産ラインをストップすることはなかったが、オーダー通り「揺れまで2秒の猶予時間を稼ぐ」ことに成功。現在、この半導体企業では九州地方のほか、山形県の拠点と合わせて計12カ所にユレーマスを設置している。