ネットワークを駆使してエレベーター閉じ込め事故を防止

首都直下型地震は今後30年以内に70%という高い確率で発生することが懸念されているが、首都圏においては、すでに主だった活断層の近くに基幹ユレーマスが設置されており、全域をカバーするユレーマスネットワークが構築されている。

複数の基幹ユレーマスの設置によって首都圏をカバーする(出所:ミエルカ防災)
複数の基幹ユレーマスの設置によって首都圏をカバーする
(出所:ミエルカ防災)

これは三菱地所が自社グループの物件にユレーマスを導入したことが大きい。同社は新丸ビルやサンシャイン60、横浜ランドマークタワー、酒々井プレミアム・アウトレット、佐野プレミアム・アウトレット、御殿場プレミアム・アウトレットなど、関東近郊の計19物件にユレーマスを設置しているのだ。同社がユレーマスを導入した経緯について、ミエルカ防災代表取締役社長・松尾勇二氏が言う。

「同社は当初から直下型地震に対して非常に強い危機意識を持っていました。それは大きな直下型地震が発生した際には、高層ビルのエレベーター閉じ込め事故が多数起こることが想定されているからです。内閣府の中央防災会議は、首都直下地震が起こると最悪のケースで1万7000人がエレベーターに閉じ込められる可能性があると試算しています。しかし、エレベーターを復旧させて救出を行う専門業者の数は少なく、そうした事態に早急な対応ができません。そうなると長時間にわたって人が閉じ込められる可能性もあります。同社はまさにこうした被害想定に対するソリューションを探していたのです」

そのソリューションとして採用されたのが、ユレーマスネットワークによる地震速報システムだ。三菱地所のケースでは、揺れの発生まで10秒の猶予時間があれば高層ビルで動いているエレベーターをもっとも近い避難階まで動かして安全に止めることができる。

この10秒を確保するため、三菱地所は大手町・丸の内エリアの高層ビルだけでなく、関東近郊のアウトレットなどにも基幹ユレーマスを設置。広範囲にネットワーク化したことで、より早い地震検知を可能にした。例えば、丸ビルから70kmほど離れた鴨川断層の深度8kmを震源とする地震シミュレーションでは、丸ビルまで主要動のS波が到達するまで19.4秒かかる。

基幹ユレーマスが丸ビルだけに設置されているケースだと、P波を検知して主要動のS波到達までに確保できる猶予時間は7.4秒。しかし、より震源に近い横浜ランドマークタワーにも基幹ユレーマスが設置されているので、地震発生から8.5秒後にはそこでP波を検知、その地震情報が0.6秒で丸ビルに伝達されるので、S波到着まで10.3秒の猶予時間が確保できるのだ。

「私たちの地震速報システムにおいて、最も重要な役割を果たしているのが、この“ユレーマスネットワーク”です。そして、このネットワークで得られた地震情報データは、すべてのユレーマス利用者で共有し、活用できるようになっているのです」(松尾氏)

95パーセントの地震で緊急地震速報よりも早期に地震検知

現在、首都圏では帝国ホテルや日本空港ビルディング、キリンビバレッジ、三井不動産なども基幹ユレーマスを導入。それぞれの企業は、ユレーマスネットワークをすべて利用できる。

例えば、2020年5月6日に発生した千葉県北西部を震源にした地震では、もっとも震源に近い基幹ユレーマスが設置された酒々井アウトレット(三菱地所物件)がP波を検知して地震情報を各地のユレーマスに伝達、震源から約40km離れた日本橋三井タワー(三井不動産物件)で、揺れまでの猶予時間10.8秒を確保に成功している。ちなみに、これは緊急地震速報の猶予時間より1.6秒ほど長い。

基幹ユレーマスが設置されている酒々井プレミアム・アウトレット(出所:三菱地所・サイモン)
基幹ユレーマスが設置されている酒々井プレミアム・アウトレット
(出所:三菱地所・サイモン)

このネットワークを駆使したユレーマスの地震警報システムは特許を取得し、これまで紹介したように実績も上げている。

「2018年1月から2020年5月までに発生した48件の地震について発生の見逃しは0件、また地震が発生していないのに誤判定をしてしまう空振りも0件です。ユレーマスから50km以内を震源とした地震は22件あり、そのうちの20件で気象庁の緊急地震速報よりも早期に検知しており、95パーセントの地震でユレーマスのほうが長い猶予時間を確保できました。一方、震源がユレーマスから50kmより遠くなると気象庁より早かったのが23パーセントと低くなるのですが、ユレーマスは緊急地震速報とも連携しており、より早く検知した方をネットワーク経由で伝達する仕様になっています。つまり、緊急地震速報とは補完し合う関係になっているのです」(柳澤氏)

また、このユレーマスの緊急地震速報サービスは気象業務法の「地震予報」ではなく、P波観測データの提供、利用者へのS波情報の計算技術支援ということで気象業務法と適合したサービスになっている。