国や自治体が民間企業へ業務を委託する際に活用される公募型プロポーザル。官のお題に対して民間企業が企画提案書を提出し、優れたアイデアと事業者を選出する方式で、公平性・透明性を担保する手法として採用する自治体が増えている。

21世紀ならではのアプローチと言えるが、この図式では民間企業はあくまで“待ち”の姿勢となる。そのうえ官から出されるテーマはあくまで行政視点のものであり、民間企業から見れば自社事業と関わりがなければ接する機会もない。

官にスモールスタートを促す仕組み

他方、行政が抱える課題は年々多様化・複雑化しており、行政サービスが追いつかない状況が続く。本来であればアジャイルに検証を重ね、解決策を探っていきたいところだが、税金を使う立場ではポンポンと公募を出すわけにも行かない。それゆえ、課題が片付かず山積している。

ならば民間企業が関心のあるテーマを投げかけ、それに自治体が応募する形にすればいいのではないか。そうすれば企業は新規事業につながる社会課題を発掘でき、自治体は目の前の困りごとの解決に向けてスモールスタートでクイックな実証ができる。しかも企業が寄附やリソース提供という形で協力してくれるとしたら――。

2021年初頭、そんな思いから発想した「逆プロポ」なるサービスが本格的に始動した。立ち上げたのはSOCIALX(ソーシャル・エックス)の共同代表を務める伊佐治幸泰氏と伊藤大貴氏。伊佐治氏は新卒で東京海上日動火災保険(以下、東京海上)に入社後、新規事業開発に長く従事し、金融業界初のデジタルサービスを多数手がけた。片や伊藤氏は日経BPの記者を経て、横浜市議会議員を3期10年務めた人物である。

“官と民のプロフェッショナル”が出会ったことで生まれた逆プロポは、スタートから1年あまりで、すでに多くの官民共創事例を成功させた。リリース発表だけで第9弾まで成立し、現在プロジェクトが複数走っているという。伊藤氏いわく「コロンブスの卵」から始まったソリューションについて、2人に話を聞いた。

偶然の出会いからすべてが始まった

――そもそも2人はどのように出会ったのですか。

伊佐治氏:私は東京海上に16年間勤め、新規事業開発に携わってきました。もともと東京海上はデジタル化に意欲的で、私もDX(デジタルトランスフォーメーション)の先駆けとなるようなサービスを多数開発しました。

一方、日本社会が課題の解決策であふれるなか、より大きな社会課題の実像がつかめずにジレンマを抱えていたことも事実です。それらの課題は、一般消費者のマーケティング調査からは一部しか見えず、解像度がぼやけていました。そこで社会課題を発掘するプロになりたいと考え、東京海上を退社。活動を始めた矢先にたまたま伊藤の主張をWebで発見し、私からアプローチしました。Googleで「自治体、CX(カスタマーエクスペリエンス)」と検索して、最初に出てきた名前が伊藤だったんです。

伊藤氏:すぐに意気投合しました。最初の出会いが2020年7月なのでまだ1年半しか経っていませんが、よく「10年来の友だちですか?」と聞かれます。

私は大胆な財政改革で知られる中田宏氏が横浜市長を務めていた時期に横浜市議会議員に初当選しました。そのときに「もはや行政サービスだけで社会システムを支えていくのは不可能」ということを目の当たりにしたんです。しかし現在のスキームは制約が多く、民間企業と協力しながら事を起こすにしても時代のスピード感に即していないのが現状です。

そんな問題意識を抱えていた頃に伊佐治と出会い、「民間企業はお金を払ってでも解像度の高い社会課題を欲しがっている」と聞き、正直驚きました。社会課題にニーズがあるなど想像もしていませんでしたから。

――なるほど。それが逆プロポのアイデアへとつながるわけですね。

伊藤氏:はい。自治体には複雑化・多様化した社会課題が溢れすぎ、自分たちのアイデアだけではどうにもならない状況まで来ています。とはいえ、どの企業が最適な解決策を持っているかは探りようがない。仮にアタリがついたとしても、例えばいきなり東京海上のドアをノックして「この課題を解決してくれませんか?」というわけにはいかない。何重もの手続きを踏んで委託先を決めるしかないからです。

伊藤氏(左)と伊佐治氏(右)。官と民のプロフェッショナルの出会いから逆プロポはスタートした(写真:小口正貴)
伊藤氏(左)と伊佐治氏(右)。官と民のプロフェッショナルの出会いから逆プロポはスタートした
(写真:小口正貴)

ただ、伊佐治の話を聞いて「コインの裏表をひっくり返せばいいのではないか」と考えました。コロンブスの卵のような発想ですが、社会課題をほしがっている民間企業がテーマを出し、そこに自治体が手を挙げるのはどうかと。

伊佐治氏:伊藤はどれだけの企業が食いついてくるか不安を感じていたようです。でも私自身が大企業で身をもって体験してきたので、多くの企業が社会課題を探しているとの確信がありました。なぜなら、これまでにない新規事業を生み出したいときに、社会のニーズをデータ化、言語化しているサービスがなかったためです。