半導体はすぐに調達量を増やせない

半導体を使って機器やシステムを作る企業からすれば半導体不足は心配の種だが、半導体メーカー側から見れば応えきれないほどの注文が殺到している状況であり、将来の成長が間違いのない有望ビジネスと言える。「大儲けできるのだから、大増産すればよいのではないか」と思う人も多いことだろう。しかし、半導体をすぐに増産することは一般的には簡単ではない。

まず半導体を作るのには意外と長い時間がかかる。チップの種類にもよるが完成までに通常約3カ月かかる。現在は「半年前には注文を確定していただかないと、納められない状況」(ルネサス エレクトロニクスで代表取締役社長兼CEOを務める柴田英利氏)という声もある。

しかも投資額は巨大だ。いかに需要増が確実視されていたとしても、半導体メーカーは簡単に設備増強できない。スマートフォンやサーバー向けなどのチップを製造する先端の半導体製造ラインの場合、1本構築するのに約1兆円もの資金が必要になる。実際には1社で何本かの製造ラインを構築することになるので、数兆円が必要だ。ちなみに、自動車工場を作るための投資額は1000億~2000億円。まさにケタ違いである。

不足するチップは必ずしも最先端技術で作るものばかりではない。最先端ラインを建設するのに比べれば、比較的安価で生産能力を増強できる可能性があるものの投資効率が低いため、半導体メーカーは投資に積極的ではない。

国対抗のパワーゲームが始まる

こうした膠着状態を危惧した各国政府は半導体不足の常態化を阻止するため積極的に動き始めた(図4)。半導体不足の長期化と定常化は国力の毀損につながるからだ。

図4  半導体生産の増強に向けた各国政府の産業政策
図4 半導体生産の増強に向けた各国政府の産業政策
出所:経済産業省「半導体戦略(概略)」

米国のバイデン大統領は、米国内の半導体メーカーなどのCEO(最高経営責任者)をホワイトハウスに21人招集して半導体サミットを開催。そこで、助成金や税控除など優遇措置による国内生産支援の要請を受け、半導体サプライチェーンの調査を指示する大統領令に署名し、半導体不足に対処するための「積極的な措置」を講じることを約束した。具体的には最大3000億円の補助金や「多国間半導体セキュリティ基金」の設置などを含む国防授権法を可決した。さらに「Chips for America法」と呼ぶ500億米ドル(約5兆5000億円)の半導体産業投資を含む法案を推進し、半導体メーカー各社の設備投資を促した。

欧州では、欧州委員会の委員が2021年4月、TSMCとインテルに対して「世界半導体市場における欧州のシェア20%を目標に半導体生産を増やす」という欧州連合(EU)の戦略を説明、工場の建設などに向けた協力を要請した。今後2~3年で最大17億5000億円の投資を実施する見込みである。