チップの価格は上昇、納期は遅延、粗悪品や偽物も

品不足は価格上昇を招く。需要に生産が追い付いていないチップでは、通常価格の10倍以上で取り引きされているものもある。さらに、発注から納品までに要する時間は2021年7月に20.2週間となり、前月に比べて約8日間延びた。車載マイコンについては26.5週間と、通常の6~9週間から大幅に遅れている。

通常、自動車メーカーや電子機器メーカーは、半導体メーカーと直接取り引きして部品を仕入れる。しかし、モノ不足や納期の問題などが生じた場合には、代理店などを通じた一般市場から調達するようになる。実際、半導体不足が顕在化してからは半導体の通販商社の受注が増えている。

代理店を挟むなどして流通過程が複雑化したことで、偽物や粗悪品が市場に出回り始めるようになった。廃棄された電子機器から回収した中古半導体を外観だけ変えたもの、大手メーカーのロゴを勝手に書き込んだ偽物も数多く出ている。こうした粗悪品や偽物をつかむ例は、検品体制がしっかりしている自動車向けよりも一般電子機器向けの方が多いようだ。

自動車業界から他業界にも波及

半導体不足の影響は、自動車業界以外の様々な業界に波及している(図3)。自動車と同様、スマートフォンやテレビ受像機、ゲーム機、白物家電、さらには工場で使う製造装置や医療機器まで、あらゆる電子機器や装置・設備の生産、さらにはこれらを用いたサービスの提供にまで影響が及んでいる。

図3 半導体はあらゆる機器やサービスを生み出す起点 出所:経済産業省「半導体戦略(概略)」
図3 半導体はあらゆる機器やサービスを生み出す起点
出所:経済産業省「半導体戦略(概略)」

韓国サムスン電子は、2021年後半の同社製スマートフォンの出荷台数が前年比で20%減少するとみている。また、米グーグルは自社ブランドのスマートフォン「Pixel 5a 5G」を発表したが、2021年の発売地域を米国と日本に限定することにした。中国の小米(シャオミ)も、4月に発表した新機種の発売を7月まで延期。いずれも理由は半導体不足である。サムスンに至っては、自社が世界有数の半導体メーカーでありながら半導体不足の波に飲まれた。自社半導体だけでは製品を作れないからなのだが、半導体不足への対策がいかに困難な状況なのかが分かる。

通信インフラの整備計画の遂行を危ぶむ声も聞かれるようになった。携帯電話事業自体に新規参入した楽天モバイルは、2021年夏までに4G(第4世代移動通信システム)対応の人口カバー率96%の実現を目標としていたが、基地局で利用する半導体が足りずに整備が遅れたとした。

さらに今回の半導体不足は、半導体を作るために必要な製造装置の生産にまで影響を及ぼし始めた。半導体製造装置大手のディスコは半導体不足に対応し、使用する半導体の種類を9割減らしてリスク軽減に取り組んでいる。半導体増産に欠かせない装置も生産できないという、絵に書いたような悪循環だ。

半導体搭載機器を作らない企業も安心できない

半導体を搭載する電子機器を作る企業でなければ、半導体不足とは無縁。そう高をくくっていると、足をすくわれることになるかもしれない。

インターネット上で提供する多様なサービスは、利用の拡大に応じてデータセンターで使うサーバーを増強する必要がある。このため、サーバーなどに搭載する半導体の供給状況によっては、今後のサービスの整備スケジュールに影響を及ぼすかもしれない。また、企業や政府・自治体が推し進める業務のデジタル化の取り組みにも影響を及ぼす可能性がある。

好業績の意外な企業にも影響は及んでいる。例えば、コンデンサーやスイッチ、コネクターなど電子部品メーカー。彼らの業績は、テレワークの拡大などによる電子部品需要の高まりでほとんどが増収増益である。そのなかで半導体不足が顕在化している自動車業界向け製品については先行きに慎重な姿勢を見せている。電子部品を搭載する応用製品の減産があるからだ。日本電産は家電向け部品などが伸びた一方で、自動車向けは減少。「自動車の需要は旺盛だが、半導体などの材料不足で自動車メーカーの生産が落ちた」(関潤社長)。村田製作所も2022年3月期の通期業績予想を上方修正したにもかかわらず、自動車部品の需要予測は当初から引き下げた。同社は「半導体不足による自動車の減産は比較的長期化するのではないか」(村田恒夫会長)とみる。これらの企業は、同様の現象が他の市場にも波及しないか警戒している。