要因となった3つの想定外と拡大した2つの潮流

半導体不足の状況は少なくとも2022年まで続くことが確実視されている。車載半導体大手のルネサス エレクトロニクス 社長の柴田英利氏は「2022年第1四半期も現在の状況は続く」と語っている。半導体受託製造(いわゆるファウンドリー)の世界最大手である台湾のTSMCは、2021年4月の決算会見で「世界的な半導体不足が年内は続く」という見通しと、問題が解消するのは「2023年ごろになるだろう」という見解を示した。この見通しが確実かと言えばそうではない。現在の半導体不足が様々な要因が複雑に絡み合って起こり、将来予測が極めて困難だからだ。

今回の半導体不足の顕在化と影響拡大の原因を整理すると、2020年から2021年にかけて生じた「3つの想定外」がきっかけとなった。そして技術の進化と業界構造の変化による「2つの潮流」によって深刻化した。ここでは半導体不足を生んだ要因を紐解きながら、それぞれを解決するための方策の指針を挙げたい。

まずは3つの想定外の事態について解説する(図4)。

図4 半導体不足を引き起こした3つの不測の事態 出所:AdobeStock
図4 半導体不足を引き起こした3つの不測の事態
出所:AdobeStock

1番目の想定外の事態とは、コロナ禍に際して自動車業界の見通しが外れたことである。コロナ禍により世界各地で次々と都市封鎖された2020年前半、国際通貨基金(IMF)は世界中のほとんどの国や地域での2020年の国内総生産(GDP)はマイナス成長となると予測。それに伴い「世界の自動車の需要も大幅に落ち込むことが確実」という見通しが広がった。2020年には、世界で約2000万台分の新車需要が消失すると予想したシンクタンクもあった。こうした見通しに基づき各自動車メーカーは生産計画を下方修正し、半導体など部品・材料の調達計画も見直した。

ところが予想は外れた。最初にコロナの影響を受けた中国市場が想定外のスピードで回復。さらに自動車は「三密防止に有効なプライベートな空間」とみなされ需要が落ちなかった。自動車メーカー各社は増産に舵を切り、一度リリースした半導体の再調達に走ったのだが後の祭りだった。リリースした半導体を製造するための生産能力が、テレワークの拡大や巣ごもり需要の高まりに対応するためのIT機器やデジタル家電機器向けに振り向けられた後だったからだ(図5)。

図5 アプリケーション別の半導体市場の推移 出所:経済産業省「半導体戦略(概略)」、Omdiaのデータを基に経済産業省が作成
図5 アプリケーション別の半導体市場の推移
出所:経済産業省「半導体戦略(概略)」、Omdiaのデータを基に経済産業省が作成

2番目の想定外の事態は度重なる半導体工場の操業停止である。2021年入り、半導体メーカー各社の工場が災害や火災などによって操業停止に追い込まれた。2月には、多くの半導体工場やそこに原料を供給する化学プラントが集中する米国テキサス州を大寒波が襲い、サムスンや車載半導体のシェアが高いオランダのNXPセミコンダクターズ、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズなどの工場が操業停止した。3月にはルネサスの那珂工場で火災が発生。それより以前、2020年10月には旭化成マイクロシステムの延岡工場でも火災が発生し、復旧が遅れていた。また、台湾では2020年から降水量の低下による過去数十年間で最悪の水不足に陥った。半導体の生産には潤沢な水が必要になるのだが、TSMCなどにも厳しい給水制限が行われた。

3番目の想定外の事態は米中ハイテク覇権争い。2019年以降、国際政治の動向が半導体産業に大きな影響を及ぼすようになった。米国商務省は、米国にとって貿易を行うには好ましくないと判断した国外の個人・団体などを制裁対象リスト(エンティティリスト)に登録。登録された企業に対して米国製品を輸出するには、米国政府の許可が必要となる。既に華為技術(ファーウェイ)や中国最大の半導体ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)なども登録されている。

半導体の製造ラインには、米国製の半導体製造装置がたくさん使われている。チップの設計にも米国製の設計ツールが多用される。輸出規制により従来のサプライチェーンが機能しなくなるため、代替となるサプライチェーンが構築されるまでは中国系の半導体メーカーからの調達が不能になる。SMICがエンティティリストに登録された際には、同社の顧客から台湾のファウンドリーに注文が殺到した。これが半導体不足の深刻化を助長した。