コンクリート×●●で次代を切り開く

公衆トイレの開発は、3Dプリンター活用を世間にアピールする取り組みとしてスタートした。それまで研究や開発とは無縁だった石井氏を始め、社内の3人の女性がSDGsプロジェクトに抜擢され、「SDガールズ」が誕生。アイデアマンの社長から「3Dプリンターで出力したトイレをインドに普及させるプランを考えてほしい」との命が下った。

SDガールズの面々。左端がデジタル経営本部の石井氏。手前のロゴも3Dプリンターで出力したもの(写真:小口正貴)
SDガールズの面々。左端がデジタル経営本部の石井氏。手前のロゴも3Dプリンターで出力したもの
(写真:小口 正貴)

「実際にインドを訪問してトイレ事情を視察してみると、切実な社会課題であることが見えてきました。まず自宅にトイレがないのが当たり前で、100メートル、200メートル先の公衆トイレで用を足している。ふさがっている場合は野外排泄を余儀なくされ、女性が危険な目に遭うことも日常茶飯事だと聞いて驚きました」(石井氏)

インド向けプロトタイプのトイレ(写真:小口正貴)
インド向けプロトタイプのトイレ
(写真:小口 正貴)

インド向けのプロトタイプは花のつぼみをイメージした丸形で、SDガールズが何度もダメ出しを食らいながら仕上げたものだ。排泄層にはおがくずを使用し、微生物が固形物を分解するバイオマストイレを採用。さらに空気中の湿気から水を生成する装置を備え、上下水道と連結しない自己完結型のオフグリッド仕様とした。これは清潔な水道インフラが整備されていないインドの状況を加味したためである。装置のコストや電気の供給など、まだハードルはあるものの「安全で持続的に使い続けられるトイレのひな形になったと思います」と石井氏は振り返る。

空気中の湿気から水を生成する装置(写真:小口正貴)
空気中の湿気から水を生成する装置
(写真:小口 正貴)

トイレを公表した2020年秋以降は問い合わせがぐんと増え、建築物以外の製作に関しては続々と事例が生まれている。例えばワイン農家の依頼を受け、コンクリート製のワインタンク製造にも挑んでいる。

コンクリート製のワインタンク。ステンレスとは異なり、微妙な通気性があるためにワインのまろやかさと厚みが増すという。こうした独特な形状は3Dプリンターの得意分野(写真:小口正貴)
コンクリート製のワインタンク。ステンレスとは異なり、微妙な通気性があるためにワインのまろやかさと厚みが増すという。こうした独特な形状は3Dプリンターの得意分野
(写真:小口 正貴)

會澤高圧コンクリートのユニークなところは、3Dプリンター以外でも貪欲に最新テクノロジーを採り入れている点だ。バクテリアが修復する自己治癒コンクリート「Basilisk(バジリスク)」はオランダのデルフト工科大学と開発したもので、すでに量産化に成功。製造段階で少なくないCO2を排出するコンクリートの長寿命化を図る。この観点から、「脱炭素」に向けたソリューションとして脚光を浴びている。

2021年8月には福島県浪江町に研究開発型生産拠点の「福島RDMセンター」を建設することで町と合意。敷地内ではスマートマテリアル、再生可能エネルギー、スマート農業、防災支援などの各種研究を行なう。そのほか、すでに開発を進めているエンジン搭載の産業用ドローンを用いた「空飛ぶコンクリート3Dプリンター」の実用化を検討する。

産業用途に特化した500㏄エンジン搭載の大型ドローンを独自開発。左が會澤氏、右が開発者である元スズキの二輪エンジンデザイナー、荒瀬国男氏。人や危険物を避けながら飛行できる完全自律型航行システムとのセット提供を予定する(出所:會澤高圧コンクリート)
産業用途に特化した500㏄エンジン搭載の大型ドローンを独自開発。左が會澤氏、右が開発者である元スズキの二輪エンジンデザイナー、荒瀬国男氏。人や危険物を避けながら飛行できる完全自律型航行システムとのセット提供を予定する
(出所:會澤高圧コンクリート)

「外側から見るといろんなことに挑戦していると思うかもしれませんが、“コンクリート×●●”の軸は一切ぶれていません。もしドローンで3Dプリンティングができるようになれば、ロボットアームが届く範囲という物理的制約がなくなり、異次元のステージに突入します。これらはすべて、実現可能性が見えているテクノロジーばかり。数年後には現実となる期待があるため、我々のような若い世代も非常にやりがいを感じています」(東氏)