2020年度以降、小学校ではプログラミング教育が必修化された。これは何もプログラマー養成を目指すものではない。ITサービスやロボットなど、世の中の仕組みがどのようなプログラムで動いているかを知り、子どものころから論理的思考を身につけるための教育だ。2021年度からは中学校でも必修化された。

奇しくもコロナ禍において、1人に1台ICT端末を整備する「GIGAスクール構想」が加速。これにより、各個人がパソコンやタブレットを活用し、より創造的な学習に集中できる環境が整ったことになる。

そこでは、いかに児童が興味・関心を持つ教材を提供できるかが鍵を握る。文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」では、「企業と連携しながら行う授業実践を踏まえた指導例」を追加した。興味を引く教材提供において、教育産業以外の“外部の血”を重視していることが見て取れる。

ロボット掃除機の雄が発売したプログラミング教材

2021年2月、ロボット掃除機「ルンバ」や床拭きロボット「ブラーバ」で有名なiRobot(アイロボット)が、プログラミングロボット「Root」を発売した。これもまた、外部の血の好例である。円形のルンバ、四角形のブラーバに対し、Rootは六角形。清掃機能はないが、無料の専用アプリ「iRobot Coding」を通じて自由にプログラミングできるのが特徴だ。

上位機種のRoot rt1。小学生でも片手で持てるコンパクトな大きさ(出所:アイロボットジャパン)
上位機種のRoot rt1。小学生でも片手で持てるコンパクトな大きさ
(出所:アイロボットジャパン)

メインとなる上位機種の「Root rt1」(税込み2万9800円)は、走行、描画、音楽演奏、マグネット付着によるホワイトボードの垂直移動、7色の光、プログラミング可能なLEDライト、段差検知、タッチセンサーなどを備えた。下位機種の「Root rt0」(税込み2万4800円)はカラーセンサーや垂直移動、段差検知などを省いたモデルだが、児童がプログラミングをするのに何ら遜色はない。いずれにせよ、プログラミング教育と切り離せないSTEAM教育※における格好の教材となっている。

※科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、デザイン(Art)、数学(Mathematics)と学問の垣根を超えて創造的な学びを実践する教育

アイロボットでは公式サイトのみの販売とし、まずは小学校の現場で活用してもらう戦略を取っている。Root rt1の発表時には全国の小学校から希望を募り、1校につき6台、合計1000台を無償提供することにしたところ、わずか半日ですべての枠が埋まった。アイロボットジャパン シニアコミュニケーションマネージャーの村田佳代氏は「反響の大きさは想定以上。先生たちが求めていたロボットに最適だったのではないか」と分析する。

アイロボットジャパン シニアコミュニケーションマネージャー 村田佳代氏(撮影:小口 正貴)
アイロボットジャパン シニアコミュニケーションマネージャー 村田佳代氏
(撮影:小口 正貴)

子どもたちの発想力に期待する創業者の想い

なぜ、アイロボットが教育分野を重視するのか。そこには、創業者であるコリン・アングル氏の強い想いがある。村田氏は次のように話す。

「創業者は3歳でトイレを修理した逸話を持つほど、心の底からモノづくりが大好きな人。それだけに子どもたちの創造力や感受性を非常に大事なものとして捉えている。現在、アイロボットには1200人ほどの従業員がいるが、そのうち700人がエンジニア。しかし、人材不足は深刻でロボット工学のエンジニアが圧倒的に足りていない。

今後を考えると、これはアイロボットだけではなく、社会全体の課題になる。子どもたちにロボットやモノづくりにもっともっと興味を持ってもらい、エンジニアリングの楽しさに触れてほしい。できるなら将来、アイロボットで一緒に働いてほしい――そうした願いが根底にある」(村田氏)

あらかじめセットアップされているユニコーンの描画プログラミング。Rootの動きの裏側を可視化することで「こうすればこうなる」という論理的な思考を身につけていく(撮影:小口 正貴)
あらかじめセットアップされているユニコーンの描画プログラミング。Rootの動きの裏側を可視化することで「こうすればこうなる」という論理的な思考を身につけていく
(撮影:小口 正貴)

Rootに先駆け、米国本社では2009年からSTEMプログラム(STEMはSTEAMからArtを除いたもの)を導入。年に2日のSTEM休暇を設け、社員らが自発的に母校や教会、地元の児童館などでルンバの実機を用いてプログラミングのノウハウを子どもたちに教えている。日本でも2017年からスタートし、東京や大阪のオフィスで社員の主導により定期的に開催してきた。こうした取り組みを小型ロボットに凝縮したのがRootになる。

Rootを活用したプログラミングには3段階のレベルがある。レベル1の「グラフィック・ブロック」は、絵で描かれたアイコンをドラッグ&ドロップで動かしながら“こうしたらこう動く、こうしたらこう光る”といった基礎の論理的スキルを学ぶ。レベル2の「ハイブリッド・ブロック」は、アイコンとテキストを融合した内容で、「あと5度右に」「30センチ前方へ動かす」などのより高度なコーディングが可能だ。レベル3の「フル・テキスト・ブロック」はプログラミング言語のPythonを用いたテキストコーディングで、ここまでくればプログラマーと変わらないスキルを習得できる。

淑徳小学校の授業風景(出所:アイロボットジャパン)
淑徳小学校の授業風景
(出所:アイロボットジャパン)

「米国バージョンのRootの箱には対象年齢を4歳から99歳までと記してあるように、幅広い年齢層で学習できる内容だと自負している。児童はiRobot Codingアプリのシミュレーターで内容を確認しながら自宅でプログラミングすることができる。作成したプログラミングはクラウドに保存され、発行された5文字の暗証コードを入力すれば学校でRootに接続してリアルな動きを確かめられる。操作性の容易さや片付けが不要といった点に加え、そうした柔軟性も評価が高い」(村田氏)

各児童が得意分野を持ち寄る、チームワーク醸成にも貢献

授業でも踏み込んだ利用法が出てきている。例えばプログラミングが苦手でも、ピアノが得意な子が鍵盤のアイコンを操作しながら即座に作曲して演奏を担当。絵が不得意でも算数に長けた子であればプログラミングで好きな絵を描けるようになる。そして最後に、プレゼン上手な子が成果を発表するなど、チームワークの醸成にも一役買っている。

「これぞ教科の垣根を超えたSTEAM教育だと思う。ある小学校では、ジングルベルを鳴らしながらツリーを描いて、赤と緑を光らせるプログラミングを課題とした。相当な工夫が必要だが、まずはチーム一丸となって考え、トライ&エラーを繰り返して仕上げなさいと指導する先生が多いと聞く。子どもたちもロボットの立場になって自分で体を動かして角度を確かめたりしてチャレンジしている」(村田氏)

トライ&エラーを繰り返しながら理想の内容に高めていく(出所:アイロボットジャパン)
トライ&エラーを繰り返しながら理想の内容に高めていく
(出所:アイロボットジャパン)

こうした力作は “作品”として保存し、Rootを配布した学校の先生同士が集まるコミュニティ上で公開されることもある。「ほかの学校の取り組みを見て、先生も子どもも刺激を受ける。新しいアイデアを共有し合うことは互いのモチベーション向上にもつながっている」と村田氏は言う。

Rootは37都道府県(2021年12月10日時点)に導入済みで、全国47都道府県に導入することがアイロボットジャパンの目下の目標だ。アニメ大国の日本では、子どもたちはロボット=ヒト型を連想してしまうそうだが、「ルンバも自動販売機も自動ドアもエレベーターもプログラミングされているロボットなんだよと教えてあげると、プログラミングに対する見方が変わる」と村田氏。自らが試行錯誤しながら学べるRootは、まさに生きたプログラミング教材と言えるだろう。