自動で部屋をキレイにしてくれる掃除ロボットや簡単な対話ができる愛玩ロボットなど、様々なロボットが生活の中に入り始めている。ロボットは進化を続け、いずれさらに多くのロボットが活躍する社会が訪れるだろう。

応用例の1つとして考えられるのが、外出時や家の中の移動を支援してくれるロボット。今後社会はますます高齢化する。ロボットに手助けしてもらいながら「好きな時に外に出かけ、家の中でも自由に動きたい」というニーズはさらに高まるだろう。しかし、こうしたロボットにも「弱点」があり人との共生を阻む。例えば、歩道と車道を分けるブロックやバスのステップなどの「段差」。わずかな段差でも、ロボットは乗り越えるのが難しいことがある。さらに自動ドアに使われるガラスを認識しない。ガラスの存在が分からずにぶつかってしまうことがある。

その弱点に注目したのが東京大学 先端科学技術研究センターの高畑智之特任准教授。もともとMEMS(微小電気機械システム)が専門だった高畑氏は、センサーによる計測と測定結果の分析を中核としたロボットの研究を始めるようになった。ロボット研究を進め、人の生活を豊かにするロボットとの共存を考えたとき、ロボットの限界を感じるようになる。研究の背景と今後の社会をどのように描いているのか聞いた。

東京大学の高畑智之特任准教授 人とロボットが共生できる社会の研究を進めている(写真:新関雅士)
東京大学の高畑智之特任准教授 人とロボットが共生できる社会の研究を進めている
(写真:新関雅士)

気がねなく動ける世界を思い描く

――ロボットがますます普及するこれからの社会について、どのような姿を思い描いていますか。

私が実現したいのは、自分の体の状態によらず、自分の意思で気がねなく生活できる世界です。足が不自由になっても、外出はしたい。不自由とまではいかなくても、腰が痛い、膝が痛いというときにでもいつもどおりに動ける世界を実現したいと考えています。

実現を目指すのは「行きたいところへ安全・安心に出かけられる社会」(出所:高畑智之氏)
実現を目指すのは「行きたいところへ安全・安心に出かけられる社会」
(出所:高畑智之氏)

――そのためには何が必要でしょうか。

移動の妨げとなるものを取り除くという考え方がありますが、それは現実的ではありません。実際には妨げがあるという前提で、移動する人が環境に合わせる必要があります。

例えば、車椅子の利用を考えたとき、車椅子だけでどこにでも行けるわけではないので、公共的な移動手段と連携していくことが必要でしょう。階をまたいで移動するときには、エスカレーターやエレベーターに乗るし、遠くに行くときにはバスや電車に乗ることになります。こうした場面で、自由に乗り降りできるのが大事じゃないかと思いました。

現状のバスは、車椅子の方が利用したいときにはまず「乗りたいです」と意思表示する必要があります。すると運転手が降りてきて、スロープをかけて乗せて、車内に固定して、という段取りが必要です。これを、乗りたいときに車椅子が変形してバスにスムーズに乗られたら、気兼ねなく出歩けるのではないかと考えています。

歩道を歩くときにも「気兼ねなく」というわけにはいきません。歩道には段差や傾斜がたくさんあります。車輪が取られて操縦がずれてしまう問題があります。まずはこうしたことに対応できることをやりたいと考えました。

そこでバスの乗り降りやエスカレーターの昇降を想定した実験を行いました。バスについて言うと、「ノンステップ」と呼ばれる低床型のバスでも120ミリメートルくらいの段差があります。車椅子の半径よりも大きいので、そこを乗り越えるのが難しいのです。きちんとバランスを取りながら、車輪をうまく使って順番に持ち上げて前に進んで乗せるという仕組みが必要です。エスカレーターも昇降スピードが速いので、バランスを崩さないように動かす必要があります。昇降時には重心を低くすることで安心感が得られるような工夫もしました。

高畑氏らが行ったロボット(車椅子)移動の実験の例(出所:高畑智之氏)
高畑氏らが行ったロボット(車椅子)移動の実験の例
(出所:高畑智之氏)

現在は決まった高さやスピードに合わせて動きを決めていますが、将来的には、センサーが高さや速度を認識して、体重の位置を考えながら自動制御するようにしたいと考えています。

――ロボットと人の共生を考えたとき、段差以外の妨げにはどのようなものがあるでしょうか。

安全に移動するためには、車椅子やロボットがカメラを通じて周囲の状況を正しくとらえる必要があります。

そこで、もう1つのテーマとして周りの環境をどのように認識できるかという研究をしています。

ロボットが自律移動するには、周囲の正しい認識が必要になる。(出所:高畑智之氏)
ロボットが自律移動するには、周囲の正しい認識が必要になる。
(出所:高畑智之氏)

認識が難しいのが、ガラスの存在です。ガラスの存在を認識できず、窓ガラスや自動ドアにぶつかってしまうというケースがあります。

「ガラスは透明」というのは、可視光に注目した場合です。ガラスは可視光が通過するので向こう側が見えます。一方、遠赤外線は通しません。サーモグラフィーでガラスを撮影すると真っ黒に映って向こう側の風景が分かりません。この違いに注目することで、ガラスの存在を推定できると考えました。

同軸カメラで撮影した画像の例。左から2点は、可視光カメラによる映像(左)と赤外線カメラによる映像。右の写真上下2点は、両カメラから推定される人を青色表示、推定されるガラスを赤色表示したもの(写真:新関雅士)
同軸カメラで撮影した画像の例。左から2点は、可視光カメラによる映像(左)と赤外線カメラによる映像。右の写真上下2点は、両カメラから推定される人を青色表示、推定されるガラスを赤色表示したもの
(写真:新関雅士)

両方の画像を取るには、可視光カメラと遠赤外線カメラを2台並べておくとよいのですが、当然視差が生まれ、カメラによって見え方が変わってきます。これを解消するため、機械を専門とする私が開発したのが、機構の工夫によって実現する色画像・温度画像同軸撮影システム(同軸カメラ)です。このカメラをロボットに載せるには小型化する必要がありますが、私の研究の場合、光の分離装置をレンズの後ろに置くなどの工夫を施しています。レンズの前面に置くとなるとレンズの画角全体を覆うようなミラーを使わないといけないので、どうしても大きくなってしまいます。現状では、市販品の1割くらいの容積に収められるようになってきました。

最近のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの委託研究では、この同軸カメラを使った環境認識を屋内外の3次元マップと連携させようとしています。建物内には自動ドアがたくさんあってロボットの移動の妨げになることがあります。ロボットが移動する際にも、このカメラがあれば自動ドアのガラスの有無を推定したうえで、開いているのか閉まっているのかを識別できます。

――どのようなユーザーに使われるとお考えでしょうか。

まずは自動運転で屋内と屋外を行き来する配送ロボットなどに応用できます。また、車椅子の安全支援にも役立つと思います。それ以外にも、最近展示会に出展して多くの方から問い合わせをいただきました。困っている人が多そうだとは以前から思っていましたが、ガラスで困っている人が多いことを改めて実感しました。

――この同軸カメラは、移動ロボットに載せて既に動かしているのでしょうか。

まだそこまでは行ってないですね。ロボットに載せるとなると画像にブレが生じたりしますから、認識結果に悪い影響がないことを確認する必要があります。ロボットに載せて認識はできますが、その結果を使ってロボットを安全に動かすというのはこれからの重要なテーマです。

ロボットに搭載したカメラから周囲の状況を認識し、それに基づいた動きをさせるのが次の研究ステップ(出所:高畑智之氏)
ロボットに搭載したカメラから周囲の状況を認識し、それに基づいた動きをさせるのが次の研究ステップ
(出所:高畑智之氏)