博士課程のときに「アントレプレナー道場」という授業に出席

その小型化という成果を手にして創業したのがPale Blueだ。2020年4月、小泉准教授をはじめ東大で超小型衛星用推進機の基礎研究と実利用に取り組んできた4人が共同創業者となり、コロナ禍の中で船出した。

「もともとこのタイミングで創業することを決めていました。コロナ感染拡大により、共同研究していた東大に入れなくなり試験ができなかったり、海外の展示会での営業活動ができなくなったりしました。でも、創業したばかりなので、しっかりとプロダクトをつくり切ることが重要と考えていました。不安を感じている余裕はありませんでした」

好きな言葉は「なんとかなる」
好きな言葉は「なんとかなる」

超小型衛星および推進機の製造はパソコンを組み立てることに近いという。「要は電子部品や機械部品を組み合わせたシステムなんです。放射線といった特殊な環境にさらされますが、基本的には地上の産業用製品と同じと思っています」

コロナ感染の拡大期には必要な工具や部品をすべて家に持ち帰り、小さなクリーンブースを家の中につくって推進機を組み立てた。今、Pale Blueが製造する推進機は水タンクを含め全体が10cm立方ほどで、手のひらに載るくらいのサイズ。水タンクの中には500cc程度の水が入る。水蒸気式も、水プラズマ式を加えたハイブリット方式も、体積はほぼ同じだという。

水蒸気式エンジンを搭載した超小型実証衛星
水蒸気式エンジンを搭載した超小型実証衛星
(提供:Pale Blue)

浅川氏が起業した背景には2つのことがあった。ひとつは基礎研究と実利用で感じていたギャップだ。「アカデミックの世界に生きるのも楽しそう」と当初は考えていたが、「基礎研究で論文を書いて評価されるポイントと、実利用するために大事なポイントがまったく違う」ことに疑問を抱くようになった。このまま基礎研究を続けていても、自分が開発する推進機は実利用されることがないのではないかと次第に思い始めたのだ。

もうひとつは博士課程のときに出席した「アントレプレナー道場」という授業だった。起業やスタートアップについて初歩から体系的に学べ、東大卒の起業家もゲスト講師として講義を受け持っていた。浅川氏は当時を振り返り、「その授業を受け始めたのがスタートアップの入り口となった」と話す。

スタートアップは資金繰りをはじめ様々な経営課題で行き詰まることが少なくない。宇宙工学を専門とする4人は企業経営や財務に明るいわけではない。Pale Blueの創業から4カ月後、独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンド(東京・港区)が出資をしてくれた。「社外取締役に就いてもらい、チームづくりやファイナンス面でサポートしていただきました。今も週1回のペースでずっとコミュニケーションを取っています」

創業後、宇宙実証のプロジェクトが3つ同時に進行し、開発の手が回らなかった。「人を採用したいけれども、採用活動をしたこともなかったし、そもそもベンチャーなので人がなかなか来てくれない」。最初に採用したのは創業から10カ月が過ぎた頃で、インキュベイトファンドの紹介によるものだった。その後、会社のホームページを立ち上げたり、メディアに紹介されたりするうちに、少しずつ応募が集まるようになった。

現在は4人の創業メンバーに正社員14人、アルバイト4人が加わり、総勢22人を数えるまでに成長した。機械設計や制御基板の設計などの仕事に、自動車メーカーや電気メーカーから転職してきた人が取り組む。「まだまだ採用していきたい」と浅川氏は話す。

推進機の性能評価試験などに用いる真空チャンバー(提供:Pale Blue)
推進機の性能評価試験などに用いる真空チャンバー
(提供:Pale Blue)