「推進機が必要になるのは必然でしかない」

Pale Blueの水蒸気式エンジンを搭載した超小型衛星は2019年に国際宇宙ステーション(ISSS)から放出されている。次の関門は2022年度にJAXAが予定している「革新的衛星技術実証3号機」での宇宙実証だ。水蒸気式と水プラズマ式のハイブリット方式の推進機について、軌道上実証が確かめられる。

これ以外に22年には、国内の民間企業や大学の研究機関と連携して行う宇宙実証が2つ予定されている。

2021年10月末にアラブ首長国連邦のドバイで開催された「第72回国際宇宙会議(IAC2021)」では、JAXAの展示スペースを間借りして Pale Blueも出品。浅川氏(右から4人目)は水エンジンを世界に売り込んだ
2021年10月末にアラブ首長国連邦のドバイで開催された「第72回国際宇宙会議(IAC2021)」では、JAXAの展示スペースを間借りして Pale Blueも出品。浅川氏(右から4人目)は水エンジンを世界に売り込んだ

超小型衛星に推進力を与えることで何ができるのか。

例えば高度400km以下の低軌道を回る超小型衛星は次第に高度を下げ、寿命を終える。仮に1年の寿命のものなら、推進機を付けることで寿命を2倍に延ばすこともできる。

ロケットで打ち上げ、「相乗り」方式でいくつもの超小型衛星を軌道に投入することが多いが、必ずしも狙った軌道に乗るとは限らない。推進機があれば、自分たちがサービスをしたい軌道に徐々に移動させていくことができる。

地球観測にしても通信にしても、超小型衛星の高度を変えて利用したい場合がある。それも推進機があれば可能だ。

さらに最近問題になっている宇宙ゴミ(スペースデブリ)。役目を終えた人工衛星やロケットなどの破片が宇宙ゴミの正体で、地球を取り囲んでいるその数は数万個にも及ぶ。磁気で吸い付けたり網を使ったりして宇宙ゴミを除去する方法が試みられているが、そのとき宇宙ゴミを捕獲する衛星の推進機に使えるかもしれない。

「水がクリーンであることは間違いない。SDGsなど世の中のトレンドは無視できないと思う」
「水がクリーンであることは間違いない。SDGsなど世の中のトレンドは無視できないと思う」

「超小型衛星が宇宙空間を自由自在に動き回れるようにする。これが私たちのやりたいことです。地上を考えてみると、モビリティによる輸送があって初めて産業が成り立ちます。宇宙空間も同じで、推進機が必要になるのは必然でしかない。宇宙空間で何かをしようとしたら、能動的に働く推進装置は明らかに必要になります」

22年に3つの宇宙実証を成功させることがPale Blueの今後を左右する。「宇宙実証という箔が付けば、23年以降は本格的に推進機を販売できると思っています。そこから量産体制を構築し、エンジン販売という事業を直近の5年間でしっかりとやっていく。そして、その先は水エンジンをベースにした宇宙空間での新しいサービスを展開したいと思います」

例えば宇宙空間で水エンジンに水を補給するサービスや、顧客の人工衛星を宇宙空間で動かしてやるようなサービスだ。地上でいえば、ガソリンスタンドの設営であり、レッカー車によるロードサービスに相当する。つまり将来構想は、宇宙空間のモビリティインフラを構築することにある。

Pale Blueは「淡い青」という意味。この社名には3つのエピソードがある。1つめは1977年に太陽系外探査衛星「ボイジャー1号」が60億km離れた宇宙から地球を撮影、地球が淡い青の点として写ったことから「Pale Blue Dot」と呼ばれること。2つめは「淡い青」が水を連想させ、水を推進剤としたエンジン事業の象徴になっていること。3つめは「淡い青」が東京大学のスクールカラーであることだ。
Pale Blueは「淡い青」という意味。この社名には3つのエピソードがある。1つめは1977年に太陽系外探査衛星「ボイジャー1号」が60億km離れた宇宙から地球を撮影、地球が淡い青の点として写ったことから「Pale Blue Dot」と呼ばれること。2つめは「淡い青」が水を連想させ、水を推進剤としたエンジン事業の象徴になっていること。3つめは「淡い青」が東京大学のスクールカラーであることだ。

起業を考えている人へのアドバイスを求めると、浅川氏はこう答えた。

「やりたいことをやれないのが一番もったいない。それは取ってはいけないリスクです。資金繰りなど大変なことはありますが、かならず周りに助けてくれる人がいるはずです。勇気を出して一歩踏み出すことが必要ではないでしょうか」