EU(欧州連合)の機関投資家の中にいる「生物多様性アナリスト」。彼らは今、ある日本のプロジェクトに注目している。積水ハウスが進める「5本の樹」計画だ。生物多様性アナリストたちが強い関心を寄せるのはなぜか。

世界は今、地球温暖化を受けて気候変動対策に乗り出している。企業によるその取り組みは始まったばかりなのに、生物多様性の保全が新たなテーマとして浮上してきた。気候変動対策と生物多様性の保全が密接に結びついていることを考えれば、この二つの課題が間髪入れずに国際的な議論のテーブルに乗るのは無理からぬことではある。

生物多様性や自然資本について、欧州勢はその基準や開示のルールづくりを主導しようと積極的に取り組む。その欧州勢が注目する「5本の樹」計画とはどんな意義のあるプロジェクトなのか。

植樹した数は1709万本、東京都の街路樹の17倍

積水ハウスは住宅メーカーとして住宅を建設する時に、庭づくりも一緒に行う。また大規模な街づくりをする時には街路樹も整備する。こうした造園緑化事業の売り上げは年間650億円から700億円に上り、日本で最大規模の造園業者でもある。

「5本の樹」計画を始めたのは2001年。「5本の樹」計画とは、「3本は鳥のために、2本は蝶のために」という思いを込めて、「地域の在来種」を植える運動だ。実際に植えるのは5本とは限らず、東京都内の戸建て住宅の場合で垣根などを含め50~70本に上るという。「5本の樹」とは、都市の住宅地に緑のネットワークをつくり、生態系を保全するための、あくまでも象徴的なネーミングだ。

庭に集まる鳥や蝶。上左からコゲラ、メジロ、シジュウカラ。下左からアカボシゴマダラ、モンシロチョウ(撮影:長坂 邦宏)
庭に集まる鳥や蝶。上左からコゲラ、メジロ、シジュウカラ。下左からアカボシゴマダラ、モンシロチョウ
(撮影:長坂 邦宏)
(出所:積水ハウス)
(出所:積水ハウス)

2021年度で計画を開始してから20年を迎えた。これまでに植樹した数は実に1709万本。東京都の街路樹の17倍に相当する数の木を、沖縄県と島嶼部を除き、オーナーの理解と協力を得ながら、日本各地で植えてきた。日本を5つの地域で分けて地域の気候風土に合った在来樹種を選択する。

積水ハウスが「持続可能な経営」に取り組んだのは早い。1999年に環境推進部を設置し、「持続可能性を経営の基軸に据えようという機運が高まり、そのためにはどういう価値観が必要なのか、海外事例を勉強した」。ESG経営推進本部環境推進部の佐々木正顕部長はそう振り返る。2005年4月にはサステナブル宣言を行っている。

積水ハウスESG経営推進本部環境推進部の佐々木正顕部長(撮影:長坂 邦宏)
積水ハウスESG経営推進本部環境推進部の佐々木正顕部長
(撮影:長坂 邦宏)

「日本はかつて自然豊かで、虫が鳴き、鳥がさえずる国土だった。庭づくりはきれいに見せるという美学のもとに虫をはじめ生き物を排除してこなかっただろうか。都市で生き物が減り、化学物質である農薬を偏重した管理も広がっている」

そんな問題意識のもと、「もっと都市の緑地で生き物と共存する暮らしがあるのではないか」と佐々木氏をはじめ造園緑化チームのメンバーは考え、新しい価値観と方法を模索した。