大学ICT推進協議会(AXIES)は2020年12月9日から11日までの3日間、年次大会を開催した。例年、大学の教職員や研究機関、企業の担当者に向けて、会場を設けてICT活用に関する研究発表やセミナー、展示会などを行ってきた。今回も当初は大阪・梅田の会場での開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染症対策でオンラインでの開催となった。

 会期中は、eラーニング、ICT基盤の整備、セキュリティ、認証システム、研究支援など多様なテーマの研究発表やセミナーがあった。今回は特に、大学でのオンライン授業の実態や課題、安全なリモート環境の提供、認証システムといったコロナ禍でのICT活用に関する発表が多かった。

 開会の挨拶をした深澤良彰会長(早稲田大学理工学術院教授)は、「コロナ禍の状況でどのように年次大会を開催するかについて検討を重ねてきた。昨今の感染状況を見ると、オンライン開催にしたことは正解だった。大学など教育機関でのICT活用を推進するAXIESらしい年次大会になった。オンラインと対面のハイブリッド型の授業、学習データを分析してより良い学習につなげるラーニングアナリティクス、ポストコロナ時代に向けたDX(デジタルトランスフォーメンション)などまだまだやるべきことは多い。今回の年次大会が新しい取り組みへのきっかけになることを期待している」などと話した。

 12月10日には2つの基調講演が行われた。1つめの基調講演は、米国の非営利団体「EDUCAUSE」の会長で、米ニュージャージー州立ラトガーズ大学の上級副学長兼最高情報責任者(CIO)も務めるミッシェル・ノーリン氏が行った。EDUCAUSEは全米約1600の大学や教育関係組織、約250の国際機関が加盟しており、CIOや研究者、職員などの大学におけるICT専門家を組織化している。また、EDUCAUSEとAXIESは、提携関係にある。

 ノーリン氏は、米国で新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、大学はどのように教育を維持しているかについて紹介した。米国では、2020年3月中旬から対面授業を停止してオンライン授業に移行する大学が増えた。

 米国では9月に新学期が始まる。そこに向けてオンライン授業のための教員研修を実施した大学が多く、オンライン授業が一気に進展した。米国でもコロナ前はビデオ会議のシステムは導入されていたものの、実際にはほとんど利用されず、むしろ電話による会議の方が多かったという。授業も対面がほとんどで、ビデオ会議や学習管理システム(LMS)は使われなかった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により状況は一変し、システムの増強などを進めた大学が多いという。

 EDUCAUSEが加盟校の学生に対して調査した結果、コロナ禍で学生が最も重視しているのは無線LAN環境(Wi-Fi)と充電のための電源だった。調査した学生の半数が2台のデジタル端末を大学構内の無線LANに接続しており、少数だが6台以上をつないでいる学生もいたという。こうしたことからインターネット接続環境を充実させることは学生の学びを維持するためにも重要と述べた。

 新型コロナウイルスの影響により、学生が大学に来ないことによるカフェテリアの販売中止、講座の受講取りやめ、州政府の財政悪化による補助の減額などから大学の収入が減っており、63パーセントの大学でICT関連予算を削減している。

 こうした状況を受けてノーリン氏は、大学運営の中でCIOの役割の重要性が増していると話した。ICTを活用することが大学の学びを維持する上で必要不可欠になっていることから、大学の経営陣の中でICTを活用することへの認識が今まで以上に深まっている。これまで大学の中でCIOはシステム管理や維持の担当と目されることが多かったが、大学運営に関する戦略や予算策定に参画することが増えており、大学運営の理事会メンバーに加わっているCIOも増えているという。

 今後重要になってくるのは、大学の収入が減っていく中でコストを削減しながらシステムや必要なインフラを整備していき、ICTサービスを集中管理して少ない人数で運営できるようにすること。感染症拡大は、リモート活用やICT利用のソリューション開発といった新しい大学運営を進める契機になり、CIOに求められる役割も変わりつつあるという。

 大学のCIOはIT業界と大学の両方に所属しており、双方についての知識や知見が必要となってくる。大学の今後の方向性やICT活用について大学経営の立場から提言していくことが求められると話した。