茨城県つくば市において、学習者用デジタル教科書の履歴データ活用の実証研究が2021年10月から始まった。実証研究に参加するのは、つくば市教育委員会のほかに、東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也研究室、東京書籍、Lentranceの4者だ。クラウド版の学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)から学習履歴データを収集し、それを分析することで将来の指導改善につなげるのが狙い。実証研究の期間は2022年3月末まで。
4者の役割は図1の通り。つくば市内の小学校7校と中学校5校(義務教育学校を含む)に在籍する児童・生徒が各自のコンピューターでデジタル教科書を使い、その学習活動履歴を収集・分析。デジタル教科書が、児童・生徒の学力や学習に対する意識にどのような影響を与えるのかを調べる。
デジタル教科書は東京書籍が配信プラットフォームの「Lentrance」を通じて提供する。集めた学習履歴データは東京書籍が分析し、堀田龍也研究室が検証する。Lentranceはデータを可視化するツールを提供する(図2)。これほどの規模でデジタル教科書のデータを収集・分析する実証研究は珍しい。
教員の授業力向上を目指す
つくば市は、実証研究を通じてどのような成果を目指しているのか。同市総合教育研究所の中村めぐみ氏は、「最終的には授業力の向上を目指している。授業デザインによって子供たちがどう変わるのか、先生が数値的に見て振り返ることができるようにすれば、授業力の向上に結び付く」と考えている。
経験が浅く、授業デザイン力が熟達していない若い教員の授業で児童・生徒はどのような活動をするのか、逆にベテラン教員の授業ではどうなのか、デジタル教科書上の動作を見ることで違いが分かるかもしれない。中村氏は「データによって、こういう問いを投げかけると子供たちの活動が活発になると分かれば、経験が浅い若い先生の指標になる」と期待を寄せる。
デジタル教科書を改善
東京書籍は、つくば市とは違った成果を上げることを目指している。デジタル教科書では、学習者がどのページを開いたか、どこに線を引いたか、どの図を拡大表示したかといった情報が得られる。今回はさらに一部の授業では教室内をカメラで撮影し、指導案も含めてデータを突き合わせて児童・生徒の活動を分析する。
東京書籍によると、例えば英語のデジタル教科書にある読み上げ機能を積極的に使うことでスピーチやリスニングが向上するのか、学習意欲が上がるのかといったことを調べることを検討しているという。同社教育文化局 教育事業本部ICT制作部の清遠和弘氏は「どういう学習をさせたいかをしっかり考えて教科書を作っていくことにデータを使いたい」話す。
デジタル教科書・教材の配信プラットフォームを運営するLentranceは、学習履歴データを分析するツール「Lentrance Analytics」(先行開発版)を提供する。同社社長の石橋穂隆氏はツールについて、「履歴の数値データだけを見ても分かりにくい。データ分析のプロではない人が見ても利用できるように可視化する」と説明する。いわゆる学習分析(ラーニングアナリティクス)ダッシュボードで、グラフなどを使ってビジュアルに表示するようだ。