国立極地研究所は例年、南極・昭和基地から教員が授業を行う「教員南極派遣プログラム」を実施している。2021年度は2人の教員が、南極授業を担当する。本連載は、そのうちの一人、宇都宮大学共同教育学部附属小学校の渡邊雅浩教諭の寄稿と国立極地研究所の協力で、南極授業に向けた取り組みを紹介する。

 こんにちは! 宇都宮大学共同教育学部附属小学校、理科担当教諭の渡邊雅浩です。私は現在、国立極地研究所(極地研)の教員南極派遣プログラムで、第63次南極地域観測隊に同行し、2022年2月初旬に行う予定の南極授業の授業者として、南極の昭和基地で準備を進めています。

 2021年12月19日、南極観測船しらせは南極の昭和基地沖に接岸し、われわれはその後、昭和基地に入りました。昭和基地では、第62次南極地域観測隊の越冬隊の方々が歓迎の横断幕を広げて出迎えてくれました。日本を出発してから40日、長い旅路の果てにようやく昭和基地に到着です。

昭和基地に到着した渡邊雅浩教諭
昭和基地に到着した渡邊雅浩教諭
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 教員南極派遣プログラムとは、「極地の科学や観測に興味を持つ現職教員を南極の昭和基地に派遣し、衛星回線を利用して、現地から派遣教員が企画する『南極授業』を行うもの」です。南極授業は、極地研、日本極地研究振興会が主催し、文部科学省南極地域観測統合推進本部事務局と連携して実施します。派遣教員は、この「南極授業」や帰国後の活動を通して、国内の小・中・高等学校等の児童・生徒や一般の方々に向けての、南極に関する理解向上につながるさまざまな情報発信をすることになっています。

衛星中継で2月上旬に小中学生に「南極授業」

 私は今回の教員南極派遣プログラムにおいて、2回の南極授業を予定しています。1回目は、2022年2月4日に、所属の宇都宮大学共同教育学部附属学校の小学2年生から中学3年生に向けて実施します。インテルサット衛星中継を利用して附属小・中学校の全教室と昭和基地をZoomでつなぎ、中継授業を行います。GIGAスクール構想で導入された1人1台タブレットPCを活用して、どの子も参加できる大人数参加型の南極授業を目指します。2回目の南極授業は、小学生、中学生、高校生、大学生を含む一般に向けて2月5日にオンライン開催され、Zoom上で行います。参加者の募集は宇都宮大学のウェブサイトで行っています。

 昭和基地では、主に観測隊の野外観測支援と設営作業支援の2つを行いながら、南極授業のための取材を進めています。

<野外観測支援①> ~ラングホブデ氷河~

 12月29日から2週間、昭和基地から約20キロメートル離れたラングホブデと呼ばれる地域にある氷河で研究観測をしている北海道大学低温科学研究所の杉山慎先生のチームに同行し、取材しました。ここでは、南極観測第Ⅸ期計画の重点研究観測2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用」の一環で、氷河の変動について研究しています。私は、ラングホブデ氷河の上でテント泊をし、観測活動のお手伝いをしながら取材をしました。

2022年1月1日のラングホブデ氷河(パノラマ写真)
2022年1月1日のラングホブデ氷河(パノラマ写真)
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 ラングホブデ氷河の上では、熱水掘削という手法で氷河の氷に穴を開けて、観測機器を入れ、氷河がどのように流れているのかを調べます。夏のラングホブデ氷河の上には、氷河が溶けた水でできた川が流れています。熱水掘削では、その川の水をくみ上げ、80度に温めます。それによってできたお湯をジェットのように噴射し、ゆっくり氷を溶かしながら掘っていくことで、氷河に穴を開けていきます。

 氷点下の気温の中、10時間近くかけてハンドルを回し、熱水を送るホースを降ろしながら氷河に穴を開けていく作業はとても大変です。また、穴を掘り続けていくために、絶えず燃料や水を補給する仕事、掘削用のホースを絡まないように送り続ける仕事など、さまざまな分担作業があります。みんながチームとなって助け合いながら、穴を掘っていきました。

熱水掘削では、80度のお湯をジェットのように噴射して氷を溶かす
熱水掘削では、80度のお湯をジェットのように噴射して氷を溶かす
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ラングホブデ氷河での熱水掘削の様子
ラングホブデ氷河での熱水掘削の様子
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 そして、ついに開通です。当初、レーダーによって350メートルと予想していた氷の厚さは、実際に掘り進めていくと、なんと550メートルもありました。やっと開通した穴にカメラを入れて、氷河の底にある南極大陸の映像が見えた時の興奮は、代えがたい経験となりました。

 南極大陸では今、大陸を覆う大きな氷が少しずつ減っています。どうしてその氷が減っているのか、氷河の動きを基にそのメカニズムを調べている杉山先生チームの研究を、南極授業でお伝えできればと思います。