教育とICT Online 特別座談会 これからの子供たちのためのICT活用教育 第2回「教育現場の環境整備と教員のスキル向上」 特別協力:日本マイクロソフト

 文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」により児童・生徒1人1台の学習用コンピューターと高速の校内ネットワーク整備が進むなか、教育の情報化を進めていくには機器の配備だけでなく、教員のICT活用能力を向上させていくことが不可欠だ。

 文部科学省は、教員のICT活用能力向上のために、教員研修を強化する。また、情報化で大きく変わる教育現場を支援するため、2022年度までに4校に1人程度の配置を促しているICT支援員だけでなく、新たに導入したGIGAスクールサポーターやICT活用教育アドバイザーの制度を活用して、教員の負担を削減しながら学びのICT活用を進める方針だ。

 日経BP主催の座談会「これからの子供たちのためのICT活用教育」では、3回シリーズで教育関係の有識者が今後のICT活用教育の可能性や課題、その解決策などについて議論する。

 第2回は2020年12月14日、「教育現場の環境整備と教員のスキル向上」をテーマに開催した。今回の参加者は以下の通り。

座談会「教育現場の環境整備と教員のスキル向上」出席者(順不同、敬称略) 座長	東京大学教授、慶應義塾大学教授 鈴木寛 副座長 日経BP コンシューマーメディア局長補佐 (日経パソコン発行人) 中野淳 パネリスト	文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 課長 今井裕一 	東北大学大学院情報科学研究科 教授堀田龍也 佐賀県 教育庁 学校教育課 教育情報化支援担当 係長 山崎哲也 町田市立町田第五小学校 校長 五十嵐俊子 日本マイクロソフト 業務執行役員 文教営業統括本部 統括本部長	中井陽子
「教育現場の環境整備と教員のスキル向上」をテーマに開催した
座長 東京大学教授、慶応大学教授 鈴木寛氏

鈴木 文部科学省が推進するGIGAスクール構想で児童・生徒1人1台のコンピューター端末が整備されることで、日本の教育の情報化の歴史に新たな1ページが加えられようとしています。これを成功させるには教員がしっかりICT環境を使いこなして、子供たちがわくわくするような教育を実現していくことが大切です。

 これまでも熱心にICT活用教育に取り組んできた学校や、それを支援する地方自治体の教育委員会は数多くあります。ただ、学校や自治体でICT活用教育に積極的に取り組んでいるところとそうでないところの差が開いていることは大きな課題です。日本の学校教育を全体的に底上げして、先行している学校はどんどん先を進んでいく流れを作っていかなければいけません。

副座⻑ ⽇経BP コンシューマーメディア局⻑補佐(⽇経パソコン発⾏⼈) 中野淳

中野 これまでの学校教育の情報化は、ICT環境の整備が大きな課題でした。しかし、GIGAスクール構想で小中学校の児童・生徒の1人1台体制、高等学校も含めた校内ネットワークの整備が進みました。これからはICT環境整備後の活用に焦点が移り、それぞれの教員のスキル向上と情報共有がポイントになります。先進的な取り組みをしている学校や自治体の事例を参考にしていきたいと思います。

東北大学大学院情報科学研究科 教授 堀田龍也氏

堀田 思い起こせば2010年に当時の鈴木寛文部科学副大臣の下で「学校教育の情報化に関する懇談会」が設置されました。この懇談会で、ICTを教員が教えるための道具としてだけでなく、子供たちの学びを支える道具と位置付けたことで、教育のパラダイムシフトへと繋がりました。総務省が2010年から2013年にかけて実施した実証研究「フューチャースクール推進事業」では、1人1台の情報端末を児童生徒に持たせ、ネットワーク環境を構築し、学校現場での情報端末の利活用の事例開発と課題の抽出・分析が行われました。

 あれから10年。これまで教育の情報化に向けてさまざまな苦労や困難がありましたが、今般のGIGAスクール構想で1人1台の学習用コンピューターが全国の児童・生徒の手元に届くことになります。インフラの状況が大きく変わる中で、授業のデジタル化をどう進めるかが課題となっています。

「自律する力」と「協働する力」を身に付けることを目指す

町田市立町田第五小学校 校長 五十嵐俊子氏

五十嵐 学校教育の情報化に関する懇談会には私も委員として参加し、前任の東京都日野市立平山小学校では校長として8年にわたって学校のICT活用に取り組んできました。ところが2017年に現職の町田市立町田第五小学校に異動したときには、児童用パソコンがあるのはパソコン教室だけで、教員全員に校務用端末は配備されていたもののICT活用をするという雰囲気はなく、がく然としたことを覚えています。

 そこで翌2018年9月に児童用に通信回線付きのChromebookを1クラス分、2019年12月には1学年全員が使える3クラス分のChromebookを配備しました。端末の台数が限られていたので授業で利用するには端末の予約が必要で、予約が取れたときだけしか使えないことに教員も児童も我慢していました。これがGIGAスクール構想のおかげで、2020年12月には児童全員のChromebookと校内の無線LAN環境が整備され、好きなときに自由に端末を使って学ぶことができる環境になったのです。

 2020年は新型コロナウイルスの感染症対策もあって学校が一斉休業したりする中、まるで明治維新のように学校の情報化が一気に進み始めたように感じています。

 本校が目指すのは、児童が自分自身で学びをデザインする「自律する力」と、多様な仲間と問題解決していく「協働する力」を身に付けていくことです。本校では、普段の学校生活では児童は通常の学年クラスのほかに、1年生から6年生までを組み合わせた「セカンドクラス」に所属して異なる学年間で交流するなどユニークな取り組みをしています。

 こうした学びを実践してきた中で、新型コロナウイルスの感染対策で2020年2月末から春季休業まで全国一斉の臨時休業となったことが、学びの大転換になりました。臨時休業中に本校が進めてきたビジョンを生かそうと、児童は「自律した力」を身に付けた学習者として自分に必要な学びを実践し、友達と会えなくても「協働する力」で学習を続け、不安な気持ちがあっても1人で粘り強く学び続けていくことを指導してきました。

町田市立町田第五小学校 校長の五十嵐俊子氏は、同校が目指している、児童が自分自身で学びをデザインする「自律する力」と、多様な仲間と問題解決していく「協働する力」を身に付けていくという、学びのビジョンについて説明した

 本校ではそれぞれの児童がグーグルのアカウントを持っていて、自宅に端末があって学習できる児童は自宅の環境を使ってもらい、そうでない児童には学校保有の端末を貸し出しました。臨時休業の後半は6年生全員に端末を渡して着実に学び続けられるようにしました。最初は課題を出していたのですが、途中から児童自身に学習計画を立てさせて、自分で学びをデザインさせました。オンラインで協働学習も実施しました。まず自分の考えを述べ、共有した友達のスライドに自分の感想や意見を書き込み、共通の評価基準(ルーブリック)で自己評価をさせるようにしました。

 学習面以外でも児童同士がつながってほしいと考え、6年生にはグーグルのグループワークツール「Classroom」を開放して自由に交流できるようにしました。このとき唯一設定したルールは「他人を傷つけるような言動はしない」ということだけで、それ以外は自由に任せました。ルールを作らなかったことで、Classroomの掲示板である「ストリーム」は意味のない書き込みや情報であふれましたが、やがて児童の中から「書き込みを整理しよう」とか「掲示板のルールを作ろう」という声が出て、教員に頼らず自主運営できるまでに成長しました。

 本校が文部科学省の研究開発学校として、個別最適化された学びについて研究を始めて2年目になります。前年に比べると、それぞれの児童に応じた学びができているという研究結果が出ています。東京書籍の「Web評価支援システム」を使った学力調査では、取り組みを始めた時に5年生だった児童の学力調査(2019年1月)の結果は全国平均とほぼ同じ数値でしたが、6年時の調査(2020年9月)では全国平均を大きく上回っていて、特に「活用」「関心」「意欲」「態度」「数学的な考え方」の点数が大きくなっています。

町田第五小学校の個別最適な学びの研究で、対象児童の学力は東京書籍の「Web評価支援システム」による学力調査で大きく向上したという

 こうした数値はこれまで教員が分析して、それぞれの児童に合わせた学び方をするよう配慮してきましたが、児童自身に誤答の分析をさせるようにしたり、誤答を直すだけでなく、つまずいた点や苦手なところを把握して誤答を振り返らせたりするようにしました。

 このような学びを実践していく上で、教員同士の情報共有にも力を入れています。ICTを活用した新しい学びの挑戦を校内でミニ授業として公開したり、毎週水曜日の午後は教員が学べる「学びDAY」として時間を確保したり、教育分野の専門家に定期的に指導してもらったり、他校へICT活用の講師として派遣して研修を行なったりしています。