コロナ禍で一気に広がったオンライン授業は学校教育に何をもたらしたのか。教育のデジタル化やデータ活用などについて積極的な発言を続ける九州大学名誉教授の安浦寛人氏に聞いた。

九州大学 名誉教授 安浦 寛人氏

──コロナ禍により、学校の授業はオンライン化を余儀なくされました。2020年を振り返って、どう評価されますか。

 育っている児童・生徒、学生たちにとって、1年という時間は貴重です。時計は止まってくれないが、学校は止まってしまいました。それを授業のオンライン化によって学びを止めなかった教育関係者の努力は素晴らしいと思います。

 コロナ禍により必然的にデジタル化に取り組まざるを得なくなりました。コロナ後も、病気などで通学が難しい子供はオンライン授業を受ける、授業を録画してオンデマンドで学習内容を振り返る、教育データを活用して指導するなど、デジタルの利点を生かした教育を進めることが重要です。

──デジタルの利点とは?

 児童・生徒や学生ごとの履修履歴、教員ごとの教育実績などの履歴を蓄積し、客観的に分析することで教育の科学的運営が可能になります。例えば、客観的なデータに基づいて学び方や教え方を工夫するなど、教育の新しい道具としてデータを活用できる環境に向けて前進しました。

 ただ、大学ではITを活用した講義の進め方などについて、十分な教育を受けていない教員も見受けられました。今後、指導方法など教育能力の向上を含め、教育のデジタル化を真剣に議論しないと、日本の大学は世界から取り残されると危惧しています。

──諸外国の大学はどんな状況ですか。

 新型コロナウイルスの世界的な広がりを受けて、教育のデジタル化を進める大学は少なくありません。極端な話をすると、例えば米国の名門大学が留学生を集めるため、1年間の授業のうち、1/3が対面授業、2/3はデジタルを活用したオンライン授業で単位が取得できるようなカリキュラムを設けたとします。

 留学の費用を抑えられ、日本にいながらオンラインの授業で学び、卒業できるとなれば、日本の大学ではなく、海外の大学を選ぶ学生も増えるのではないでしょうか。優秀な学生を逃さないためにも、日本の大学は中長期的なデジタル戦略を考える必要があります。

教育データは自ら管理する

──2021年は教育データの利活用について議論が活発化するのではないでしょうか。

 教育現場で収集・蓄積されたさまざまなデータは、教育行政の立案・遂行や学校でのカリキュラム作成、児童・生徒に応じた学習指導など、幅広い活用法があります。ただし、教育データを活用する上で、データの信ぴょう性、セキュリティを担保するための仕組みが必要です。

 ビジネス分野だけでなく、教育分野でもデータの保管場所として海外のプラットフォーマーが提供するクラウドサービスを利用するケースが増えています。教育データはある意味で国の安全保障とも関わるため、自分たちが主体となって管理する必要があると考えています。

初出:2021年1月19日発行「日経パソコン 教育とICT No.15」