GIGAスクール構想の前倒しによって、高速な校内ネットワークと児童・生徒1人に1台の端末が整備され、初等中等教育における教育データの利活用は、実現に向けて大きく前進したように見える。

 ところが、東北大学大学院 教授の堀田龍也氏は、「端末があればできると思う人もいるが、端末だけあっても約束事が決まっていなければ使えない」と指摘する。「教育データの収集方法、利用法、形式などを全てこれから決めないといけない」(堀田氏)のが現実だ。

初等中等教育にはLMSがない

 教育データの利活用には何が必要なのか、詳しく見ていこう。教育データの利活用を要素に分解して整理すると、図1のような階層構造になっている。土台となる端末やネットワークは整ったが、それより上の階層は、堀田氏が指摘するように未整備の状態だ。

教育データ利活用には端末からアプリまで要素の積み上げが必要
図1 教育データの利活用に必要な要素は4つの階層に分けられる。学習者用端末のような物理層から、教材やラーニングアナリティクスなどのサービス層まで、いくつものレイヤーがある。これらを積み上げていかないと、ラーニングアナリティクスや個別最適化学習にはたどり着かない。現状、整備されているのは最下層だけだ (出所: 田村恭久氏「ラーニングアナリティクスとモデリング」)

 図1の階層構造を現状に当てはめたのが図2だ。教育データの利活用には、少なくとも(1)データを収集・保存する仕組み(2)データ形式の標準化(3)データの取り扱いに関するルール(4)標準化データに準拠した教材やサービスが欠かせない。

教育データ利活用の現状と課題
図2 教育データ利活用に向けて解決すべき課題を整理した(図の赤の部分)。これまで、いかになおざりになっていたのかがよく分かるだろう

 まず、学習履歴やテスト結果などのデータを収集・保存するには、LMSや学習履歴などのデータを保存するLRS(Learning Record Store)のような仕組みが必要だ。ほとんどの大学がLMSを利用している一方で、小中高等学校では普及していない。学校で児童・生徒がパソコンを使って学習しても、誰がどんな学習をしたといった一貫した履歴は記録されない。学習者の端末からデータを吸い上げる仕組みがなければ、分析も活用も不可能だ。

 ただし、小中学校にLMSは必要ないとする意見も多い。少なくとも大学と同じLMSが必要ないのは明らかで、LRSなどの仕組みがあればよい。

相互運用性がないと困る

 学習履歴などのデータを集める際には、何をどのように記録するのかを決めなければならない。つまり、データの内容と形式を定義しておく必要がある。LAを研究している京都大学 学術情報メディアセンター 教授の緒方広明氏は、「LAにはデータの標準化が一番重要。データ形式がばらばらだと活用できない」と訴える。さらに、「データ形式が異なると、ほかのベンダーのより良いシステムがあっても乗り換えられないため、学習者の不利益になる。教育データの利活用にはデータポータビリティ(可搬性)が大事だ」と強調する。

 標準化すべきデータ形式は2種類ある。一つは情報に機械可読性を持たせるために必要な標準化。図2の端末とLMSをつなぐ部分に当たる。例えば、Webページを構成するHTMLは、Webブラウザーが読み込んで解釈できるように決まった形式で書かれている。HTMLは標準化され、Webブラウザーはその標準に従って作られている。このおかげで、どんなWebサイトでも正しく表示できる。これと同様に、教育データをどのように記録するのかを規定する。ここがソフトやサービスごとに異なると、そのデータを記録したシステム内でしか活用できなくなる。

 教育データの標準形式には、「xAPI(Experience API)」(ADL)と「Caliper Analytics」(IMSGlobal)という2つの規格がある。事実上の世界標準なので、日本のために新たな標準規格を作る理由はない。ただ、規格が統一されなければ、データの可搬性とシステムの相互運用性が損なわれる恐れがある。データ標準化についても議論している「教育データの利活用に関する有識者会議」は2021年夏に答申を出すので、そこで何らかの方針が示されるかもしれない。