自走できる循環を作れるか

 ここまで見てきた要素が全てそろったとしても、教育データの利活用を持続できるかどうかは、全体がエコシステムとして自走できるかどうかにかかっている。

 LAを研究する上智大学 理工学部教授の田村恭久氏は「LAで細かな分析をするにはコストがかかる。どれくらいコストをかければよいのか、最終的には経済的な判断になるかもしれない」と話す。教育データの収集や分析については国の負担で進めるという手もある。文部科学省の学習eポータルとMEXCBTはそれに近い。だが、田村氏は「国が道筋をつけることは大事だが、民間企業を含めた仕組みが自走できるようにならないと発展しない」とみている。

 LAや個別最適化学習が学習者、教員、行政にとっていずれも利益になり、それに必要なコストを国・自治体や学習者が負担することで、教育システムを開発する企業にお金が回るようにする。こうしたエコシステムができなければ、教育データの利活用は進まない。教育関係者がそれぞれの立場で果たす役割は大きい。

目指すゴールの共有が大事
安浦 寛人氏 九州大学 名誉教授(前副学長)
 教育データ利活用を実現するために大事なことは3つあります。一つは、目指すゴールを関係者が共有することです。そこがばらばらだと省庁も企業も学校も、それぞれがローカルな最適化を進めてしまいます。ゴールとなる大枠を決め、そこに向けて関係者がそれぞれの立場で取り組むことが重要です。

 2つめは、始めたことは持続性を担保すること。3つめは、その持続可能性を担保するために、「運用は自分たちでできる」という世界を作っておくことです。海外のツールを使ってもよいのですが、オペレーションは国内で完了するようにしておかないと、不測の事態に対応できません。教育データがどこに保存されているのか分からないとか、海外とのインターネット回線に障害が発生したらデータを利用できないといった事態を避けるためには、データは徹底して国内にあるようにしておくことが、とても大事だと考えています。(談)
堀田 龍也氏
東北大学大学院 情報科学研究科 教授
堀田 龍也氏 文部科学省の「教育データの利活用に関する有識者会議」と「デジタル教科書の今後の在り方に関する検討会議」の両方で座長を務めるキーパーソン
緒方 広明氏
京都大学 学術情報メディア センター 教授
緒方 広明氏 九州大学ラーニングアナリティクスセンターのセンター長を務めた。「教育データの利活用に関する有識者会議」委員。提言を出した教育データ利活用分科会の幹事でもある
田村 恭久氏
上智大学 理工学部 教授
田村 恭久氏 LA、Multimodal Learning Analyticsを研究。教育データの国際標準規格にも詳しい。「教育データの利活用に関する有識者会議」の委員を務める

初出:2021年1月19日発行「日経パソコン 教育とICT No.15」