2020年は学校教育のICT活用が大きく進展した年だった。文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」で1人1台のコンピューター端末や校内ネットワークの整備が本格化した。

 一方で2020年に入ってすぐ新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、小中学校から高等学校、大学に至るまで教員や児童・生徒・学生は大きな影響を受けた。ICT環境が未整備のまま遠隔授業を余儀なくされたり、教材をデジタル化する必要に迫られたりした。教員や児童・生徒のICTリテラシーの課題も浮き彫りになった。こうした状況の中、教育現場では今後、どのようにICT活用に取り組めば良いのだろうか。

 日経BPは、「これからの子供たちのためのICT活用教育」をテーマに3回シリーズの座談会を開催している。第3回の座談会は2021年1月8日、下記の出席者で「ウィズコロナ時代のICT活用教育」をテーマにオンラインで実施した。

「ウィズコロナ時代のICT活用教育」をテーマに開催した
「ウィズコロナ時代のICT活用教育」をテーマに開催した
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座長 東京大学教授、慶応大学教授 鈴木寛氏
座長 東京大学教授、慶応大学教授 鈴木寛氏

鈴木 まさに本日1月8日からが対象となる、2回目の緊急事態宣言が昨日発出され、なかなかアフターコロナへの道筋は見えない状況です。

 前回2020年4月の緊急事態宣言の教訓から政府は小中学校、高等学校に一斉休校を要請せず、校内で感染が広がっていなければ休校せずに教育活動を継続することにしました。とはいえ、状況によって通学を減らして対面授業とオンライン授業とを組み合わせたハイブリッド型の新しい学びの体制を整備する必要性を改めて痛感しているところです。

副座長 日経BP コンシューマーメディア局長補佐(日経パソコン発行人) 中野淳
副座長 日経BP コンシューマーメディア局長補佐(日経パソコン発行人) 中野淳
 

中野 コロナ禍によりICT活用教育が求められる新しい世の中になりました。また、オンライン教育やデジタル教科書などを活用した新しい学びも始まろうとしています。今回の座談会では、これからの時代のICT活用教育の可能性や課題、その解決策について議論を深めたいと考えています。

緊急事態宣言下でも、ICT活用で学びを止めない

神奈川県立川崎北高等学校 校長 柴田功氏
神奈川県立川崎北高等学校 校長 柴田功氏

柴田 2020年4月に神奈川県立川崎北高等学校に校長として着任しました。その直後に1回目の緊急事態宣言が発出され、学びを止めないよう取り組みました。その経験を紹介しましょう。

 政府は昨日(1月7日)、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を決定し、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象に再発出しました。

 それを受けて神奈川県教育委員会から通知を受けました。朝の時差通学を徹底して、改めて公共交通機関の混雑時間等を確認した上で学校長が登校時刻を設定、併せて下校時の混雑回避のため授業時間は通常50分を40分に短縮して実施します。部活動は校内活動を原則とし、平日の放課後のみ90分程度、週3回を上限に感染リスクの高い活動は中止。大会への参加など対外活動は原則不可としました。これらは2020年6月頃と同等の対応です。

 校長として着任した2020年4月はとてもドラマチックなものでした。本校のWebサイトに、生徒や保護者、地域の方々に情報発信していく「校長通信」というコーナーを着任直後の4月2日に開設し、ほぼ毎日更新することにしました。本校には県が整備した学習者用パソコンが82台ありましたが、生徒が登校していないため使われていなかったので、3日に教員に配布しました。在校生には始業式の6日、新入生には入学式の7日にグーグルのアカウントを配布し、グループワークツール「Classroom」を使ってオンライン授業を行うことにしました。

 生徒が在宅学習になり、教員も4月9日から交代で在宅勤務をすることになったので、私が自ら講師を務めて7日と8日にICT活用の校内研修会を実施しました。タブレット端末とクラウドサービスを使ってアンケートフォームやQRコードを作ったり、カメラ機能で動画を撮影したり、同時編集でスライド資料を作ったりと、教員にはICT活用のメリットを実感してもらいました。

 その後、各教員が授業動画を作成したり、生徒に向けてClassroomを使って課題の配信と回収を行ったりしました。23日からはクラスごとにグーグルのビデオ会議システム「Meet」を使ってオンラインで朝のホームルームを実施しました。このように4月の1カ月で本校のICT活用はものすごいスピードで進んだと感じています。

柴田氏が2020年4月に神奈川県立川崎北高等学校に校長として着任した1カ月で、同校のICT活用は一気に進んだ
柴田氏が2020年4月に神奈川県立川崎北高等学校に校長として着任した1カ月で、同校のICT活用は一気に進んだ
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 本校が休校期間中に実施したICT活用の取り組みは大きく分けて4つあります。グーグルのClassroomを使った課題の提出と回収、YouTubeでオンデマンド型の授業動画配信、Meetで同時双方向型の授業を実施、科目別課題一覧をWebで公開という4つです。

川崎北高校が実施したICT活用は、グループワークツールを使った課題の提出と回収、オンデマンド型の授業動画の配信、ビデオ会議システムを使った同時双方向型の授業、科目別課題一覧のWebでの公開という4点だった
川崎北高校が実施したICT活用は、グループワークツールを使った課題の提出と回収、オンデマンド型の授業動画の配信、ビデオ会議システムを使った同時双方向型の授業、科目別課題一覧のWebでの公開という4点だった
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 同時双方向のライブ授業は神奈川の県立高校では難しかったと感じています。生徒1人1台の端末がまだ整備されていないので、個人のスマートフォンを利用せざるを得ませんでした。家庭ごとのネットワーク環境もバラバラだったので、同時双方向のビデオ会議は、朝のホームルームや質問タイムを設けてリアルタイムで教員と生徒がやりとりするなど、一部の選択科目での実施に限られました。

 いくつかの私立学校では、同時双方向型のオンライン授業を実施しましたが、公立高校では環境を整えるのが間に合いませんでした。最終的には県教委がモバイルルーターを用意して、ネットワークのない家庭に貸し出し対応しました。

 オンデマンド型の授業動画を教員が4月の1カ月で大量に作成して配信しました。オンデマンド型の動画配信のメリットは、生徒がネットワークの安定した場所に移動して視聴できる点です。例えば家族が仕事に使用しているモバイルルーターを帰宅後に借りて使うことで、時間の制約なく授業に参加できました。ライブ型の双方向授業はその時間に生徒が出席できないと取り残されてしまいますので、そうならないようにすることが重要です。

 オンデマンド型とライブ型の授業は、教員と生徒にとってメリットとデメリットがあります。それぞれの特徴を比較して理解した上で活用することがポイントです。

川崎北高の柴田校長は遠隔授業をするにあたって、オンデマンド型とライブ型の特徴を理解し、それぞれのメリットを生かした活用が必要と話した
川崎北高の柴田校長は遠隔授業をするにあたって、オンデマンド型とライブ型の特徴を理解し、それぞれのメリットを生かした活用が必要と話した
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 いま教員の間では、児童・生徒1人1台の端末と高等学校も含めた高速の校内ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」に対して、よく分からない新しいことが始まるのではないかと不安を感じる声が聞かれます。私は、これまでの教え方をまるっきり変えるのではなく、これまでの学び方を残しつつ、新しい学びを取り入れることなんだと説明し、不安の払拭に努めています。