オンライン授業の可能性を議論

中野 ここからはオンライン授業の可能性について議論していきたいと思います。

柴田 2020年の緊急事態宣言による学校休業で大きな課題だったのは、家庭のネットワーク環境です。同時双方向の遠隔授業をやりたかったのですが、ネットワーク環境がネックでした。緊急事態宣言に歩を合わせて大手の通信キャリアが総務省からの要請に応えて、児童・生徒、学生の通信データ容量の追加を50GBまで無償化する支援措置をとってくれました。対象の大手キャリアとの契約でない生徒には、教育委員会からモバイルルーターを貸し出す形で、スマートフォンを使って家庭からでも同時双方向の遠隔授業が実施できました。

 遠隔授業はライブ型、オンデマンド型それぞれの良さがあります。単元の学びの中では動画を視聴して、教員が発問し、チャットで話し合うなどのやり方もあるのではないかと考えています。家庭のネットワーク環境が整うまではライブ型、オンデマンド型のメリット、デメリットを理解して遠隔授業を使い分けるのがよいと思います。

 同時双方型の遠隔授業は教員の側も生徒の側も「その場で学んだ」と実感できる良さはありますが、ライブ型の授業が6時限続いて苦痛だったという生徒の声も聞かれたので、授業内容に応じてそれぞれを織り交ぜるのがよいでしょう。

齊藤 鴻巣市では、義務教育段階の小中学校で、無線LAN(WiFi)のようなネットワーク環境がない家庭も多くあります。2020年の学校休業のような緊急時には自治体がモバイルルーターを貸し出す対応などをすべきですが、今回2回目の緊急事態宣言では一斉休校が求められない状況なので、YouTubeなど動画配信を使って児童・生徒が見られるようにし、見られない家庭があることも容認することにしました。

 一方で鴻巣市がGIGAスクール構想で整備するコンピューター端末にはドリル教材が導入されているので、家庭にネットワーク環境がなくてもドリル教材で学習できます。学校現場がきちんと課題を提出して指示を出すことで、児童・生徒は学びを継続できます。

 小中学校段階では児童・生徒が遠隔授業を受けるにあたって、保護者がネットワークの設定や授業サイトへのアクセスなどを支援する場合が多く、そのような点についても考慮していかなければいけないと考えています。

中川 2020年の一斉休校に際して、在宅学習でデジタル教科書を使う例もありました。ただ、現在のデジタル教科書はあくまでも紙の教科書をデジタル化したもので、授業の中で使うことが前提になっているため、家庭に端末とデジタル教科書を持ち帰っても、それだけでは多くの子供が自己の学習には使えないのが実情です。個別学習や在宅学習ができるようなデジタル教材と、授業で使うデジタル教科書をどう組み合わせて構成していくかが重要です。

 梅嶋先生が、学生や生徒と教員が結果ではなく経過(プロセス)を共有できるようにしたいと話しましたが、私も同感です。デジタル教科書でもさまざまな学びの中で経過をお互いに議論できることが、これからのデジタル教科書にとって大きなポイントになるでしょう。私自身が国語を中心にデジタル教科書を見てきた中で、経過の表示だけでなく、何が論点になっているかが分かる必要があると考えています。この点があやふやなままだと、デジタル教科書の機能がいかに素晴らしくても、結果として良い授業にはなりません。教員の側もこうした機能をうまく活用した授業デザインを提示していかなければいけません。

梅嶋 高岡市と取り組んだ学校ネットワーク環境整備では、通信品質を利用する端末の所で計測することが重要です。今は、無料のアプリで計測することが出来ます。そして、現場で計測すると、遠隔授業を行おうとした場合に、インターネットの遅延が大きく、かつ帯域が限られているという問題に気が付きました。しかし、学校ネットワークのボトルネックを取り除き、普通のネットワーク機器と日々家庭で使う公衆網を組み合わせて設計することで、高岡市の学校ネットワークは安価に高速化させることができました。家庭でのネットワーク環境は、遠隔授業システム設計において最も重視した点です。家庭にインターネット回線が無い学生でも、公的な支援を受けてモバイルルーター等を受け取って安価に通信環境を確保出来る、それも難しいときは、市内の図書館などの公共施設の無線LANを開放すると言う手段も準備しました。遠隔授業を実施するシステムが閉域網にあれば、「どこでも遠隔授業」は難しかったでしょう。

子供たちの心のケアや、オンライン上のつながりをどう実現するか

日本マイクロソフト 業務執行役員 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏

中井 遠隔授業を進めていく中でもう一つ気にかけていかなければいけないのが、子供たちの心のケアや、オンライン上でつながりをどう実現するかです。私たちICT企業の社員も、ずっとリモート環境で在宅勤務をしていると、社員同士のつながりが希薄になったと感じます。教育現場も同様に、児童・生徒・学生が在宅学習で孤独を感じているようです。

 いち早く1人1台体制を整備した佐賀県から共有してもらった内容を紹介します。いろいろなICTツールを使うことで授業を配信するだけでなく、児童・生徒のコミュニケーションを促したり、例えば電子メールを使って子供たちの声を集めたり、フォームを使って健康状態を一斉に収集したりできます。こうしたツールを使うことで個別の児童・生徒とコミュニケーションを取ることも可能で、学校に登校したときはほとんどしゃべらなかった子供が電子メールではきちんと回答してくれるという事例も見られます。

 そうしたことを考えると、対面と遠隔授業を組み合わせたハイブリッドの授業は、今までの対面だけの授業とは異なる新しい教育の形を提供できるのではないかと考えています。

 マイクロソフトが提供しているビデオ会議システム「Teams」では、人とのつながりをどう表現していくか研究・開発を進めてきました。2020年8月に機能の一つとして「Togetherモード(絆モード)」の提供を始めました。会議の参加者が四角い画面で区切られて並ぶグリッドビューとは異なり、1つの背景の前に並んで表示されるというもので、遠隔授業の中でもこういった機能を使って児童・生徒、学生同士がオンライン上でもつながりを感じてほしいと思っています。

マイクロソフトが提供しているビデオ会議システム「Teams」では、会議の参加者が1つの背景の前に並んで表示される「Togetherモード(絆モード)」を2020年8月に追加した
マイクロソフトが提供しているビデオ会議システム「Teams」では、会議の参加者が1つの背景の前に並んで表示される「Togetherモード(絆モード)」を2020年8月に追加した
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活用事例などを発信するWebサイト「StuDX Style」(スタディーエックス・スタイル)を開設

文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 課長 今井裕一氏
文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 課長 今井裕一氏

今井 まず今回の緊急事態宣言に関して文部科学省の対応について説明します。現時点においては、児童・生徒が新型コロナウイルス感染症を発症したり、重症化したりする割合は低く、学校から地域へ感染が広がっている状況ではないこと、大学等の授業については対面授業と遠隔授業を効果的に活用した質の高い学修機会の確保の両立が重要ということから、1月5日に都道府県教育委員会や大学等に対して教育活動の継続と感染症対策を徹底する通知を発出しました。

 こうした状況下でICTを活用して子供たちの学びを保障するため、1月7日に萩生田光一文部科学大臣の呼びかけで日本マイクロソフトなど民間のICT事業者の方々に集まってもらってGIGAスクール構想をはじめとしたICT教育の推進についてお願いし、「ワンチーム(One Team)」で取り組んでいくという力強い賛同を得ました。

 これを受けて教育委員会などに対してGIGAスクール構想で整備するコンピューター端末やモバイルルーターなどの前倒し導入を事業者とともに進めてICT学習環境を整備し、在宅学習について促進するよう通知しました。今回の緊急事態宣言では全校一斉休校を求めていませんが、学級閉鎖や学年閉鎖、あるいは感染不安で登校できないケースもあります。その場合でも学びを止めないために在宅学習できる環境づくりが必要です。学校に整備された端末やモバイルルーターは積極的に貸し出してもらい、補正予算を活用して遠隔授業に利用するマイクなどの備品を整備したり、導入を支援するGIGAスクール・サポーターを活用したりするよう依頼しています。

 緊急事態宣言下の緊急時と通常運営している平時は分けて考える必要があります。緊急時についてはある程度の指針を示してきましたが、平時のICT活用についても指針を整理して示していく必要があると考えています。

 文部科学省では2020年12月末にGIGAスクール構想により整備されたコンピューターの活用を始める全国の教育委員会・学校に対して、活用事例などを発信するWebサイト「StuDX Style」(スタディーエックス・スタイル)を開設しました。教師と子供たち、子供同士、学校と家庭、職員同士というように、さまざまな「つながり」をテーマにICT活用の情報発信をしていきます。

文部科学省は1人1台のコンピューターの活用を始める全国の教育委員会・学校に対して、活用事例などを発信するWebサイト「StuDX Style」を2020年末に立ち上げた
文部科学省は1人1台のコンピューターの活用を始める全国の教育委員会・学校に対して、活用事例などを発信するWebサイト「StuDX Style」を2020年末に立ち上げた
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 また、端末の活用促進に向けて省内に「GIGA StuDX推進チーム」を設置し、全国の教育委員会・学校に対して支援活動を進めていきます。地域の教育委員会の方々と情報交換のプラットフォームとして活用し、国と地域が協力してGIGAスクール構想を推進したいと考えています。