授業以外でデジタル教科書をどう活用するかが問われていく

中野 デジタル教科書の可能性や活用の課題についても議論したいと思います。

中川 学校でICTを活用していく上で、現在はデジタル教科書を授業の中でいかに効果的に活用していくかということが重視されています。これからGIGAスクール構想で1人1台端末が整備され、持ち帰り学習が進んでくると授業以外でのICT活用や、日常的なコンピューター端末の活用が重要になります。デジタル教科書についても、授業以外でどう活用していくかということが問われていくのではないでしょうか。

柴田 高等学校は科目数が小中学校よりも多く、多くの学生は紙の教科書は学校のロッカーに置きっぱなしで、持ち帰ったとしても英数国ぐらいです。高校の教科のデジタル教科書があればいつでも閲覧できるので、生徒は喜ぶだろうと感じています。以前から生徒が紙の教科書をスマートフォンで撮影して、その画像を通学の電車の中で見ているケースがありました。デジタル教科書にはいろいろな機能が盛り込まれると思いますが、まずは紙の教科書と同じ内容を持ち歩けて、いつでもどこでも閲覧できるというのは重要な点です。

斎藤 以前、指導者用デジタル教科書を導入した際に、国語科で漢字の書き順を表示できることに新鮮な驚きを感じました。学習者用デジタル教科書が導入された際には児童・生徒も同じように驚きや感動を感じてくれると思います。鴻巣市でも27校中14校でデジタル教科書の実証実験を行う予定です。デジタル教科書の使い方や効果などを検証して、さまざまな課題を解決していきたいと考えています。

中野 今回オピニオンリーダーとして加わっていただいている熊本市の遠藤洋路教育長から「デジタル教科書も紙の教科書と同じように無償給与の対象にすることで普及を促せないか」という意見をもらいました。文部科学省の現在の取り組みや考え方などを教えてもらえますか。

今井 デジタル教科書に関しては有識者による「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で議論を重ねていて、年度内に中間まとめをして、2021年夏くらいには報告書を出すスケジュールで進めています。

 現在、紙の教科書は国費による無償給与が行われていますが、デジタル教科書の制度面については、検討会議における議論のほか、2021年度に予算化した「学習者用デジタル教科書普及促進事業」の成果も踏まえ、検討していく予定です。具体的には、学習者用デジタル教科書を全国の小中学校の半数程度に配布して普及促進していきます。また、デジタル教科書をクラウド配信した際にかかるコストや望ましいシステムの在り方などを検証する実証事業も行っていきます。実際に学校現場でデジタル教科書を使っていく中で、思ってもいなかったような課題が出てくると思います。そうした課題をどうすれば解決できるかについても検証していきます。

中井 デジタル教科書を活用していくと、考えをまとめたり、覚えて発展させたり、考えを提示したりするために、デジタルツールを通じて「書く」ことがより重要になっていきます。デジタル教材に線を引いたり、メモをとるためにデジタルのノートを活用したりことはますます増えていくでしょう。

 マイクロソフトでは協働学習のために、ノートアプリ「OneNote」用のツール「OneNote Class Notebook」を提供しています。クラス内でノートを共有したり、ほかの生徒の考えなどを見たり、取り入れたりすることができます。

日本マイクロソフトはOneNote用に協働学習アドイン・ツール「OneNote Class Notebook」を提供している
日本マイクロソフトはOneNote用に協働学習アドイン・ツール「OneNote Class Notebook」を提供している
[画像のクリックで拡大表示]

 また、日本マイクロソフトは2018年に「Empowered JAPAN(エンパワード ジャパン)実行委員会」を発足しました。テレワークをはじめとする働き方改革や学び直しを通した 「いつでもどこでも誰でも、働き、学べる世の中へ」をコンセプトに、東京圏および地方都市におけるテレワーク啓蒙イベント、企業・個人向けテレワーク研修などを実施しています。

 その中で、大阪工業大学が2017年からマイクロソフトのビデオ会議システム「Teams」やICTを活用して展開している質の高い授業を事例として紹介しています。既に300人から500人規模の学生がTeamsで授業を受けています。授業を受ける前に教材コンテンツをダウンロードし、教員と学生、学生同士の双方向のやり取りをより充実させています。

 大学にとどまらず、GIGAスクール構想でコンピューター端末が整備される小中学校や高等学校での遠隔授業や、対面と遠隔を組み合わせたハイブリッド授業などが進んでいることを見ると、ICTを活用して質の高い学びが受けられるようになっていくと感じています。

情報化はツールの導入だけでなく、イノベーションが必要

鈴木 本日の座談会で、ICT活用教育を進める上で家庭におけるネットワーク環境が課題だということが改めて共有できました。文部科学省が1月7日に通知したモバイルルーターの整備や事業者への協力依頼などを受けて、年度末の3月までには状況はかなり改善されているのではないかと思います。最終的には、こうした環境整備を受けて、教員と児童・生徒・学生が対面授業か遠隔授業、遠隔授業でも同時双方向のライブ型か動画配信のオンデマンド型か最適なやり方を選択できるようにしていけばよいと思います。

 私自身は1995年から教育の情報化に関わってきていますが、情報化というのはハードウエアやソフトウエアなどのツールを導入するだけでなく、組織のマネジメントやガバナンス、意思決定や考え方といったことのイノベーションが伴う必要があると考えています。

 インターネット時代のガバナンスは、中央からのトップダウンでの集中管理から、自律分散型でどこからでも協働や創発できるようになることです。それぞれの得意・不得意を生かしながら、協働で課題を解決していくのが情報化だと思います。

 本日も、学びの中で重要なのは結果ではなく経過(プロセス)だという議論がありましたが、まさにその通りです。教育の面白いところは、新しい気づきや学びを通じて子供たちの表情がパッと変わることです。教員が伴走して「分かった」「できた」ことに導くため、我々大人も変わっていかなければいけません。コロナ禍という答えのない問題をどうやって良い方向に導いていくか、さまざまな試行錯誤を繰り返す経過(プロセス)の中で、信頼や知恵、勇気や共感が生まれてくるのです。いろいろな苦労や苦悩を共有して最善を尽くし、お互いに補い合っていくのがこれからの時代の学びだと感じています。

 かつて教育には「無謬(むびゅう)性」が求められましたが、未知の出来事やコロナ禍という国難を大人たちが苦悩しながら解決したり、乗り越えていったりする姿を見せていくことが、子供たちにとっての最大の学びになるのではないでしょうか。

 また、子供たちの可能性をもっと信じてよいでしょう。デジタル・ネイティブの高校生は、私たち大人よりもずっとデジタルの素養があります。教員は立場が上で、子供たちは教えを請うべきという考えを捨て、お互いに協働していくのもよいでしょう。慶應義塾大学には「半学半教」という言葉があります。学業の進んだ者がほかの者を教え、同時にさらに上級の者に学ぶという「時には学び、時には教える」という精神です。大学に限らず、小中学校・高等学校でも、大人が誠実に子供たちと一緒に課題を解決していくことこそが、これからの時代を生きる子供への最大のメッセージなのではないかと思います。

 座談会のテーマでもある「ウィズコロナ時代」を脱するのは時間がかかるかと思いますが、コロナ禍の中でさまざまなICT活用が進んだのも事実です。多くのステークホルダーが一堂に会して知恵を出し合っていくということを不断に続けていければと考えています。