熊本市の先端校で進む教員研修の最前線

 3番目のパネリストの前田康裕氏は、同氏が教育センター主任指導主事を務める熊本市での教員研修の実態について紹介した。

 前田氏は校内研修の課題として「ハードやアプリの操作研修が中心になってしまう」「情報活用能力の育成に意識が届いていない」「カリキュラムマネジメントの段階まで至っていない」の3つを挙げた。続けて、これらの課題に取り組む3つの学校の事例を紹介した。

 事例の1つめは熊本市立春日小学校だ。図工科で情報活用能力を育成するための教員向け研修として、自分の学校の良さを伝えるポスター作りに教員が取り組んだ。その際、情報活用能力ベーシックでも掲げられている(1)課題の設定(2)情報の収集(3)整理・分析(4)まとめ・表現(5)振り返り・改善の5つのプロセスを踏むことで課題の解決に向けた道筋を教員らが自ら体験したという。

5つのプロセスを踏まえて小学校のポスター作りを教員自ら体験した
5つのプロセスを踏まえて小学校のポスター作りを教員自ら体験した
(出所:前田康裕氏の発表スライド)
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 この半日ほどの研修で、情報活用能力育成の向上、ルーブリック(学習到達度の評価基準表)を用いた学習評価への理解、教員が得た達成感・満足感が児童の学習に展開されるなどの効果が得られた。

 2つめの研修事例は熊本市立尾ノ上小学校における、校内研修の研究だ。ICTによる授業改善を目指して、それぞれの教員が「自分が変えたい」と感じている学科の授業を、チームで改善に取り組んだ。

熊本市立尾ノ上小学校の取り組みの課題設定。ICTによる学校全体の授業改善を目指し、さまざまな取り組みを進めた
熊本市立尾ノ上小学校の取り組みの課題設定。ICTによる学校全体の授業改善を目指し、さまざまな取り組みを進めた
(出所:前田康裕氏の発表スライド)
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 まずはモデルカリキュラムを見ながらICT活用教育の年間指導計画の作成に取り組んだ。結果は全員で共有して問題点を探り合う。このほか、実際の授業から改善点を出し合い、アプリ操作の研修やプロジェクト学習の体験なども経て、それぞれの授業改善の明確化を図った。

 研修は数日に分けて行われ、結果として教員のICTに関するスキルアップ、研修そのものに対する意欲の向上、自分自身の授業改善への意識の向上などが得られたという。

 3つめは熊本市立五福小学校の取り組みだ。五福小学校では情報活用能力をベースにした学習プロセスをすでにさまざまな教科に取り込んでいる。STEAM教育にも取り組んでおり、カリキュラムマネジメントの工夫により教科を横断する形で進めている。

 校長先生による「総合的な学習の時間」の改善提案が行われ、「単元構想シート」というテンプレートを元にして学年ごとに単元構想を練り上げた。これを学年ごとに発表し、共有と意見交換を行い、実際の授業に展開した。

五福小学校で使った単元構想シート。右上にある「問題の解決」を目指して「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のサイクルをつなげていく
五福小学校で使った単元構想シート。右上にある「問題の解決」を目指して「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のサイクルをつなげていく
(出所:前田康裕氏の発表スライド)
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 成果としては、教員全体のカリキュラムマネジメントに対する意識向上、情報活用能力を意識した授業への改善、そして何より児童の情報活用能力の向上が挙げられるという。

 3校の事例を通じて、前田氏は、校内研修活性化のためのマネジメントとして「研修のための時間の確保」「学校全体で共通の目標を持つ」「自他の強みを生かして得意な分野で助け合う」「皆で対話をすること」の4つを挙げた。

情報活用能力を育成するポイントは?

 最後のパネルディスカッションでは「今後。情報活用能力を育成していく際のポイントは何か?」という観点で意見が求められた。

 前田氏は第一に「教員はもちろん、生徒も情報活用能力とは何かを理解しておくこと」を挙げた。実際に小学3、4年になると実践を通じて情報活用能力が何なのかを会得できるようになるという。第2に「教員自身が学習者としての体験をしていくこと」を挙げた。教員自体が未経験なことを授業で指導することはできないからだ。そして最後に「学校全体の取り組みにしていく」ことが重要だとした。「ある教科だけ、ある学年だけでは積み上がっていかない」(前田氏)。

 佐藤氏も学校全体の取り組みが大事と続けた。「校長先生がどんなビジョンを持って教員にどう示していくかが大切」(佐藤氏)だと指摘した。稲垣氏も校長先生のリーダーシップは大切とした上で、「1時間の授業ではなく、単元レベルでの授業をどうするかを考えることが大切」と話した。単元設計の研修事例はまだ少ない。児童や生徒がどう探求していけばよいのか子供たちの視点から考えるのが大事だという。また、「子供たちの作品を味わう機会をもっと増やすべきだ」と指摘した。作品を見て、次の授業をどう組み立てていくかを考えるサイクル作りが大切だという。