日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は2022年3月11日から12日にかけて、「2021年度 教育の情報化推進フォーラム」をオンライン開催した。

 デジタル教科書セミナー「学習者用デジタル教科書で『授業が変わる』『学びが変わる』『子どもが変わる』」と題して実施されたパネルディスカッションでは、小中学校で活用が進む学習者用デジタル教科書(以下デジタル教科書)の実践例が紹介された。

 熊本市教育センターの主任指導主事の前田康裕氏がコーディネーターを務め、東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹氏と、つくば市立谷田部中学校の小松崎亮氏が教員の立場からデジタル教科書の実践例を報告し、朝日新聞社の宮坂麻子氏が記者として教育現場を取材してきた経験から特別支援学校でのデジタル教科書の活用について紹介した。

デジタル教科書セミナーのコーディネーターを務めた熊本市教育センターの前田指導主事(画面左上)、パネリストとして登壇した小金井小学校の鈴木教諭(右上)、谷田部中学校の小松崎教諭(右下)、朝日新聞の宮坂氏(左下)
デジタル教科書セミナーのコーディネーターを務めた熊本市教育センターの前田指導主事(画面左上)、パネリストとして登壇した小金井小学校の鈴木教諭(右上)、谷田部中学校の小松崎教諭(右下)、朝日新聞の宮坂氏(左下)
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 まず小金井小学校の鈴木教諭が国語の授業での実践例を紹介した。同校では光村図書出版の国語のデジタル教科書を使っている。これには教科書の紙面から本文やイラスト・写真を抜き出して活用できる「マイ黒板」という機能が搭載されている。この機能を使って、自分の考えをまとめたり、整理した画面を基にグループウエアを使って友達と話し合ったりすることで気付きが広がっていくという。デジタル教科書から文字や図を抜き出して内容をまとめることで、文章の読み返しにつながって理解度が深まり、児童が授業に没頭するようになる効果も出ている。

小金井小学校の鈴木教諭は、光村図書の国語のデジタル教科書で、マイ黒板機能を使って児童が自分の考えをまとめたりする事例を紹介した
小金井小学校の鈴木教諭は、光村図書の国語のデジタル教科書で、マイ黒板機能を使って児童が自分の考えをまとめたりする事例を紹介した
(出所:鈴木秀樹氏の発表スライド)
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 デジタル教科書を年間を通じて活用していくには「授業の内容を考えさせることに専念させ、さまざまなアプリケーションと組み合わせたり使い方を工夫したりして、友達などとの意見交換やコメントなど学習履歴を残すことが児童の学びを深めるのに役立つ」と鈴木教諭は話した。

 谷田部中学校の英語科教員の小松崎教諭は、デジタル教科書を活用した新しい英語科の授業デザインについて話した。

 最初に、指導者用デジタル教科書でストーリーカードやフラッシュカードなどを使いながら生徒の内容理解を促して基礎学習を定着させる。その後に生徒がデジタル教科書を使うことで、ネイティブスピーカーの読み上げを真似たり、自分のペースで教科書の内容の理解を進めたりすることで個別最適な学びが実現される。英語の4技能5領域である「聞くこと」「読むこと」「話すこと(発表)」「話すこと(やりとり)」「書くこと」の中でも、特に「読むこと」の力を育み、理解する力を付けることで、伝える力を育んでいくことをゴールとしているという。

谷田部中学校の小松崎教諭は、英語のデジタル教科書を活用して、生徒が自分のペースで理解を深め、個別最適な学びが実現できている授業の展開例を紹介した
谷田部中学校の小松崎教諭は、英語のデジタル教科書を活用して、生徒が自分のペースで理解を深め、個別最適な学びが実現できている授業の展開例を紹介した
(出所:小松崎亮氏の発表スライド)
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 デジタル教科書を活用することで個別最適な学びが進み、生徒が英語を使うことへの抵抗を減らしたり、自分のペースで学習を進めたりして英語学習に対する自信を付けさせることで、より効果的な学習を目指している。

 朝日新聞の宮坂氏は教育分野を取材してきた経験から、児童・生徒の学び方や理解の仕方はさまざまで、デジタル教科書が提供する拡大/縮小やマーカー、背景色の変更、音声読み上げなどの機能は、子供のさまざまな学び方を支援することに役立つと話した。

朝日新聞の宮坂氏は、デジタル教科書が提供する拡大/縮小やマーカー、背景色の変更などさまざまな機能が、学習に困難を感じる児童・生徒を支援する役割を果たしていることを指摘した
朝日新聞の宮坂氏は、デジタル教科書が提供する拡大/縮小やマーカー、背景色の変更などさまざまな機能が、学習に困難を感じる児童・生徒を支援する役割を果たしていることを指摘した
(出所:宮坂麻子氏の発表スライド)
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 授業などに困難を感じる児童・生徒は特別支援学級にとどまらない。文部科学省が2012年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」では、知的発達には遅れはないものの学習面・行動面で「読む」または「書く」に著しい困難を示す児童・生徒の割合は2.4%と推計されている。小中学校の在籍者に当てはめると、それぞれ20万人以上とかなりの子供が学習に困難を感じていることになるという。

 「デジタル教科書やデジタル教材を使うことが、学習に困難を感じる児童・生徒それぞれに適した学びを助けることになるだろう」と宮坂氏は指摘した。

学びを深めるデジタル教科書の機能強化を希望

 それぞれの報告に続いて、デジタル教科書の現状について議論が交わされた。小金井小学校の鈴木教諭はデジタル教科書のメリットは感じつつ、デジタル教科書そのものに内容を共有する機能がない点を指摘した。児童・生徒が活発に議論を交わすには共有機能が不可欠だ。現在は、マイクロソフトの「Teams」などにデジタル教科書の画面をキャプチャーした画像を投稿してコメントをするなどのやり方をしていて、学習履歴としても有効という。

 谷田部中学校の小松崎教諭は、生徒の学習履歴を「Excel」やグループ学習ツールのアンケート機能などを利用して残しているという。

 朝日新聞の宮坂氏は、読み書きが苦手な児童・生徒がデジタル教科書のテキストの抜き出しの機能を使って、マイ黒板などに切り貼りをする使い方を説明した。

 各氏はデジタル教科書の内容の利用については、著作権などの点から課題があることは理解しながらも、児童・生徒が学びを深めていくために、デジタル教科書の使い勝手の自由度が高まり、活用が進むことに期待を示した。