新型コロナウイルスによる感染症が拡大して教育機関の休校が相次ぐなか、LMS(学習管理システム)での教材配信や遠隔教育などのニーズが急速に高まっている。こうした状況を踏まえて、授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS、サートラス)は、2020年度に限り特例として、改正著作権法で定める「授業目的公衆送信補償金制度」の補償金を無償として文化庁長官に認可申請することを決めた。教育機関設置者の団体の意見聴取を経て、2020年4月中旬にも認可申請が行われる見通しだ。

 申請が認められると、教育機関は個別に著作者の許諾を得なくても、著作物を利用した教材をLMSで共有したり、著作物を利用した授業映像を録画して配信したりなどの公衆送信が可能になる。

教育機関は補償金を支払うことで、個別に許諾を得なくても著作物を公衆送信できるようになる
SARTRASは新型コロナウイルス感染症対策として、20年度は特例で著作物の授業目的での公衆送信について補償金を無償にする認可申請を行う

 2018年5月に著作権法第35条が改正され、補償金制度の下で、授業目的の場合に無許諾で著作物を公衆送信できるようになった。それを補償する仕組みとして、教育機関の設置者となる教育委員会や学校法人などが、SARTRASに一定額の「補償金」を支払うことになっている。

 2019年1月にSARTRASが設立されて以降、教育関係者や権利者と協議しながら、同制度の円滑なスタートに向けて準備を進めてきたが、補償金の額は文化庁長官の認可を受ける必要があり、利用申請の時期なども決まっていなかった。

 2020年に入って新型コロナウイルス感染症が広がって収束の見通しが不透明となるなか、3月25日に文化庁著作権課が同協会に対して「新型コロナウイルス感染症対策に伴う授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について」の連絡をし、多くの大学で遠隔授業等が始まると見込まれる4月下旬までに同制度の施行が間に合うよう、4月20日までに補償金額の認可申請をすることを要請していた。その後も感染症の拡大は収まらず、自由民主党からは2020年度に限って特例で補償金を無償とする提言が出た。

 本来は補償金の額を決めた上で著作権者に配布する運用方針を決めて、制度を施行するものだが、同協会は特例で教育機関が遠隔教育などで無償で著作物を利用できるように、文化庁長官に対して補償金額の認可申請を行うことを決めた。なお、2021年度は当初の予定通り有償として再度、補償金額の認可申請を行う予定という。

 著作権法第35条が改正されるまでも、同条の要件を満たしていれば、教育機関が授業で無許諾・無償で著作物を複製し、利用することは認められていた。例えば、学校の教員が授業で使うために、新聞の記事をコピーして生徒に配布したり、他人が撮影した写真を教材に取り入れて教室での授業に利用したりするといった行為は、著作権者の許諾を得なくても無償で行える。また、遠隔授業のために授業が行われている場所から遠隔地に映像などを送ることも認められている。一方で、授業を録画した映像を後日ほかの学校で視聴したり、著作物を複製した教材をサーバーやLMSに置いたりして、学生や生徒などがいつでも利用できるようにすることは認められていなかった。

 今回は新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための特例だが、同制度が動き始めれば、個別に著作権処理をすることなく著作物を公衆送信できるようになり、ICTを活用した教育が広がることが期待できる。認可後の補償金制度に基づく著作物の利用方法に関しては、同協会のWebページなどで公開する予定という。