グーグルは2022年4月10日、「GIGAスクール構想実現に向けたオンラインセミナー」を開催した。全国の学校現場や教育委員会等でICT推進を担当する教員などを対象に、GIGAスクール構想で導入が進んだ1人1台端末を活用した今後の教育の在り方などについて、教育分野の専門家による議論が交わされた。
パネルディスカッションは「各分野の専門家が語る 1人1台端末の今とこれから」と題して、東北大学 大学院情報科学研究科 教授・東京学芸大学 大学院教育学研究科 教授の堀田龍也氏が司会進行役を務めた。パネリストは、東京大学 大学院情報学環 教授の山内祐平氏、東京大学 大学院情報学環 教授の越塚登氏、東京学芸大学教育学部 教授の高橋純氏の3人。
GIGAスクール構想で2021年度から1人1台端末の本格利用が進んだことを受けて、堀田氏はこの1年を漢字一文字でどのように表すことができるかという質問をした。
これに対して越塚氏は「労」を挙げ、「学校現場の1年間の苦労をねぎらいたいという意味で『労』を選んだ」と述べた。高橋氏が選んだのは「楽」で、「学校現場の苦労は多いが、楽をできるように、あるいは楽しくやっていこうという考えが大切」と話した。山内氏は「革」で、「2021年は歴史的な転換点で、小中学校での1人1台端末の整備に加えて、大学でのオンライン授業や企業でのテレワークなど、学習や仕事をする上でICT環境が標準のプラットフォームになった変革の年だった」と説明した。
小中学校、高等学校の学習においてクラウドを活用することの本質的な意義は何かという問いに対しては、高橋氏が「一人一人が主語」と回答し、「1人1台の端末を持つことで、児童・生徒一人ひとりが発言権を持ったり、協働で作業ができたりするようになる」と話した。
高橋氏は愛知県春日井市の中学校3校、小学校2校で調査した事例を紹介。コンピューターが使われていなかったころと比較すると、1人1台端末を活用した授業になったことで、児童・生徒は「友達と協働できるようになった」(5段階評価で4.3)、「楽しくなった」(同4.1)、「自分のペースで進められるようになった」(同4.0)と評価していると説明した。
授業での活用以外でも、教員が児童・生徒に対して課題の提示や進め方の確認に使われている。子供たちが「Googleカレンダー」で学習予定を作ったり、ほかの子供たちと「Googleチャット」でつながったりするなど、先進的な自治体や学校では1人1台端末を使いこなすようになってきているという。
越塚氏は1人1台端末やクラウドは「新しい万能文房具」であり、「どのような用途にも利用できる万能な文房具として、考え方次第でさまざまな使い方ができる。その意味では、どのように使いたいかという教員や児童・生徒の意思が問われる」と話した。
山内氏は「共同編集による学習の深化」を挙げ、東京大学と関西学院大学千里国際高等部が実施したプロジェクトを紹介した。「Googleスプレッドシート」に議論の状況を各自が書き込んで、学びを深めるプロジェクト学習の事例だ。
司会の堀田氏は「同じ教室で一斉に受けていた授業が、児童・生徒が1人1台端末やクラウドを活用することで、自分のペースで学んだり相互に作用しあったりして深く学んでいくようになる。こうした学びが進んでいくことで、大学入試なども変わっていくのではないか」とコメントした。
1人1台端末の導入が教員にとってどのような変化をもたらしたかという問いに対しては、山内氏が「全ての教員がICTを活用するようになり、今までにない使い方が生まれるようになる」として「新しいチャンス」と捉えるべきだと話した。
越塚氏は「端末はそもそも個人向け」の存在で、「児童・生徒が端末をカスタマイズして使ったり、学びを個別最適化したりすることもできるし、教員はクラウドを使うことで一斉に質問などを配信したり集約したりできるようになる」と1人1台端末のメリットを挙げた。
高橋氏は「(児童・生徒一人ひとりが)新しい方法を手に入れた」ことが重要として、「1人1台端末やクラウドの活用により教員の指導方法が変わるだけでなく、教育方法や授業の在り方を変革していくことが求められる」と話した。