GIGAスクール構想の課題を解消する

 プロジェクトのリーダーである滋賀大学教育学部の岳野教授は、「公立の学校や先生は、導入されたパソコンやタブレット端末を使う環境を整えるだけで精いっぱい。子供たちに向き合い、ICTを活用した新たな授業を組み立てる時間がない。先生たちも悩んでいる」と、現状におけるGIGAスクール構想の課題を指摘する。

 学習指導要領などで、ICT機器を使った教育の目標は示されるものの、具体的な実践方法は現場に任されている。これまで児童・生徒が学校でコンピューターに触れてこなかったように、教員もまた授業の中でどのように進めればよいかといった実践例の蓄積が少ない。

 その意味でも、本書で紹介されている、先進的にICT機器を利用してきた教員のカリキュラムや授業実践例は多くの現場で役に立つだろう。「すぐに実践できる事例を豊富に用意し、忙しい先生でも試してもらいやすくした。教科の特性に合わせた活動において、どのようにiPadを活用しているかに着目してほしい」と岳野教授は語る。

 文部科学省が2019年に公開した「情報活用能力を育成するためのカリキュラム・マネジメントの在り方と授業デザイン」で紹介されている「情報活用能力の体系表例」を参考に、どの段階のどの教科で活用ができるかが一目で分かる表も用意されている。

 これがICT機器を活用した授業の組み立てに大変重宝する。岳野教授は「各教科と各発達段階を一覧できる。教育に関わる人に大きな指針となる重要なもの」と紹介した。

「小学校編」より。学年や教科別に達成目標、獲得スキルが具体的に示された表。使用するアプリは全てiPadに標準搭載されている
(出所:アップル)
滋賀大学教育学部の岳野公人教授。専門は技術教育。STEM教育の研究などにも携わっている
(出所:滋賀大学教育学部 岳野 公人教授)

低学年の教育に効果をもたらした

 関西大学初等部の金本竜一教諭は、小学校低学年国語の執筆を担当し、同校での事例を紹介した。

 「低学年の学びは他者とのつながりから始まる」と語る金本教諭は、iPadを3つのつながりを意識して活用したことで、低学年の教育に大きな効果を実感したそうだ。

 1つは「学校と家庭のつながり」。例えば、音読の様子を保護者がiPadで撮影して提出することにより、保護者も教員と同じ視点で子供に声をかけられるようになった。低学年ならではの「おうちの人のお手伝いをする」といった宿題は、従来、教員は確認できなかったが、iPadがあれば様子を撮影した動画で共有できる。

 こうした活動を通じて、ICT活用教育に感じていた保護者側の不安を解消するメリットもあったという。

関西大学初等部の金本竜一教諭。iPadを授業に使いこなせるかどうか不安だったが、同僚と供にiPad活用のアイデアを出し合い、授業のデザインしていったという
(出所:関西大学初等部 金本 竜一教諭)

 2つめは「日常と遊びのつながり」。本書で金本教諭が紹介している「かたかなビンゴ」がその例だ。iPadのカメラで、日常にある「かたかな言葉」を見つけて写真を撮り、iPadのプレゼンテーションアプリ「Keynote」に挿入してビンゴを完成させる。金本教諭が作成して授業で児童たちが使ったKeynoteファイルは、本書に掲載されているリンク先からダウンロードできる。「遊び感覚で日常にある語彙(ごい)を集められるようになり、児童たちが主体的に学習を進める様子に手応えを感じた」と金本氏は振り返る。

iPadのカメラで撮影した「かたかな言葉」を、iPadのアプリ「Keynote」に貼り付けてビンゴを完成させる「かたかなビンゴ」で児童たちが主体的に学習を進めていく
(出所:関西大学初等部 金本 竜一教諭)

 3つめは「友だちと学びのつながり」。さまざまな課題はアップルの学校向けアプリ「スクールワーク」によって管理されており、児童は共同制作の機能を使ってクラスメートのファイルを自由に閲覧できる。自分が取り組んだ結果との違いを見ることで「どうしてこうなるんだろう」「聞いてみたいな」といった対話の意欲につながり、主体的な学びに向かっていくという。

「ものの名まえ」という授業で言葉カードを自由に配置。話し合いの中で学んだことを書き込む児童
(出所:関西大学初等部 金本 竜一教諭)

 多様な表現ツールを備えるiPadは、児童がそれぞれにあった得意な方法で発表に活用できる。人前で話すことが苦手でも、iPadの「ボイスメモ」アプリであらかじめ録音して発表したり、動画やアニメーションを作成したりする児童もいるという。

 金本教諭は、「子供たちの学習に対するエネルギーが増した」と、1年間の成果を語る。