現実とデジタルの世界をまたぐ空間のこと。旧フェイスブックが社名をメタに変更して以来、注目度が高まっている。実際に使えるサービスも登場してきた。

 「メタバース」が脚光を浴びている。1992年に発表されたニール・スティーヴンスンによるSF小説「スノウ・クラッシュ」で提唱したとされるメタバースとは、現実とデジタルの世界をまたぐ空間のことであり、決して新しい概念ではない。2003年には仮想空間サービスの「セカンドライフ」が登場し、2009年にはサイバーエージェントが「アメーバピグ」を提供するなど、これまでも折に触れて盛り上がりを見せてきた。

 2021年になって、再度ヒートアップしてきた背景には、技術の成熟が挙げられる。この数年で、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった現実とデジタルの垣根を越える体験技術が飛躍的に進化。さらに、それらを融合したXR(Extended Reality)も登場し、ゲームなどのエンターテインメントのみならず、さまざまな産業での活用が見込めるようになってきたからだ。

 メタバースに最も注力している企業の一つが米メタ(旧フェイスブック)だ。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は同社をメタバース企業にするとして社名を変更。2021年8月19日にはデジタルワークスペースの「Horizon Workrooms」を公開(図1)。デジタル会議室に自身の3Dアバター(分身)を置くことで、あたかも出社しているような感覚を味わえる。仮想空間内に自分のパソコンを持ち込めるなど、生産性を落とさない仕組みを備える点が特徴だ。これにより、在宅勤務であっても円滑にコミュニケーションが取れるとする。

●米国のIT巨人が関心を寄せるメタバース
●米国のIT巨人が関心を寄せるメタバース
図1 米フェイスブックが公開したデジタルワークスペース「Horizon Workrooms」。従業員のアバター(分身)がデジタル空間の中で作業する。同社のVRゴーグル「OculusQuest 2」を介して、デジタル空間に参加する(出所:同社プレスリリース)
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メタバースの取り組み強化

 さらに同社は、「責任あるメタバースの構築に向けて」という声明を発表。政策立案者、専門家、産業界のパートナーによる協力体制を敷きながらメタバースの実現に向けて取り組む姿勢を示している。そのきっかけとして「XRプログラム・研究基金」を設立し、米国、アフリカ、欧州の各団体、韓国、香港、シンガポール、米国の各大学の支援を開始した。

 一方、米マイクロソフトは、アバターではなく、現実空間にデジタルコンテンツを表示するMR技術を推進(図2)。MRゴーグルの最新モデル「HoloLens 2」は、デジタルマニュアルや遠隔からの技術指導のツールとして、トヨタ自動車やサントリーなどが既に活用している。さらに同社は「ユーザーは物理世界に存在しながら、物理・デジタル両方のオブジェクトとやり取りができる世界」に向けて、リアルタイムで共同作業が可能となるプラットフォーム「Microsoft Mesh」を発表。今後は教育や医療分野にも拡大する。

図2 米マイクロソフトは現実の空間の中にデジタルコンテンツを配置するMRを推進。同社のMRゴーグルの「HoloLens 2」を通して、リアルとデジタルの継ぎ目のない世界観の実現を目指す
図2 米マイクロソフトは現実の空間の中にデジタルコンテンツを配置するMRを推進。同社のMRゴーグルの「HoloLens 2」を通して、リアルとデジタルの継ぎ目のない世界観の実現を目指す
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 国内では、KDDIが5G回線を活用した新たな都市体験「VIRTUALCITY」のコンセプトを2021年9月に発表。アバターによるバーチャルな試着や路上ライブ体験が楽しめる仕組みを「au版メタバース」と表現した。そのほか、グリーも子会社を通じてメタバース事業への参入を表明し、今後数年で100億円規模の事業投資を行う。

初出:日経パソコン 2021年11月8日号