教育データから導き出したエビデンスに基づく教育に転換できるのか。著書「『学力』の経済学」で注目され、デジタル庁ではデジタルエデュケーション統括を務める中室牧子氏に日本の教育政策について聞いた。

[画像のクリックで拡大表示]

──日本の教育政策の課題は何でしょうか。

 日本では、信頼できるデータや分析に基づくエビデンスなしに、子育てに関する議論や政策立案が行われています。政策の効果を定量的に明らかにしなければ、その政策を拡張すべきか、あるいは効果がなかったので中止すべきかという判断ができません。

 この結果、日本の教育政策には「子ども手当」や「ゆとり教育」のように、流行のようにして始まり、廃れるかのように終わってしまったものがたくさんあります。しかし、いまだに子ども手当やゆとり教育にどのような効果があったのかは、はっきりしていません。

全ての子供たちの学力を向上

──教育データの利活用が進めば、個別最適化された学びが実現すると期待されています。

 従来の学校教育では平均的な子供に合わせた教育がされており、それ以外の子供は、それぞれの学習到達度に応じた最適な教育を享受できていませんでした。

 しかし、学校教育は、個々の学習到達度の状況にかかわらず、全ての子供の学力を伸ばす環境であるべきだと考えます。学力データを集めることができれば、それぞれの子供の学習到達度に応じて学びを最適化し、一人ひとりの能力を伸ばすことが可能となります。

 学力の数値化は個人の選別につながると危惧する人もいると思います。データの利活用を妨げず、かつ不適切な使用を防止するよう留意して制度設計をしなければいけません。

──学力の数値化が進んでこなかったのはなぜでしょうか。

 全ての子供に同じ教育を行う日本の平等主義が、データの蓄積や分析を阻んでいる要因の一つです。一部の子供や学校を対象にデータ取得のために実証を行おうとしても、ほかと差をつけるとして、平等を重視する日本の公教育では受け入れられませんでした。

 しかし、教育データを取得しないままでは、教育政策の効果を定量的に評価できません。この点については、なるべく不平等にならないように手法を工夫して対応していきたいです。

──教育改革の必要性があると考えますか。

 少子高齢化や財政赤字などの問題を抱えている中で、日本の公的教育支出は減ってきています。しかし、財源が限られているとしても、積極的に教育投資を行うべきです。過去50年にわたる米国の133の公共政策を評価した最新の論文によると、社会保険や教育、職業訓練、現金給付などさまざまな公共政策の中で、子供の教育と健康への投資が最も費用対効果が高いことが示されています。

*Hendren, N., & Sprung-Keyser, B. (2020). A unified welfare analysis of government policies. The Quarterly Journal of Economics, 135(3), 1209-1318.

 日本の教育政策に必要とされているのはデータです。データを収集する段階から整備を進め、質の高い分析や効果測定によるエビデンスに基づき、教育政策の存り方を議論していくべきです。教育データの利活用で国や自治体、学校と協力し、教育の質を向上していきたいと考えています。

初出:2022年4月18日発行「日経パソコン 教育とICT No.20」

よく分かる教育DX(日経BPムック)
定価:1650円(消費税込み)
教育にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せている。国は教育データの利活用を軸にした「データ駆動型教育」への転換に向けた基盤整備を急いでいる。教員の熱意と経験に支えられてきた教育が、DXによって大きく変わろうとしている。本書では、本インタビューのフルバージョンをはじめ、国が推進する教育データ基盤整備の全体像の解説、ICTを活用した先進的な授業の事例などを収録した。