2022年5月13日、デジタル庁の高谷浩樹氏が登壇するセミナーでは、広い会場を多くの聴講者が埋めていた。高谷氏は文部科学省の初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 課長だった当時、GIGAスクール構想の実現に奔走した。現在は理化学研究所で経営企画部長を務めるが、デジタル庁のGIGAスクールアドバイザーでもある。教育関係者の間で知名度が高い高谷氏の講演とあって、多数の聴講者が集まった。

「教育総合展(EDIX)東京」のセミナーに登壇した理化学研究所 経営企画部長の高谷浩樹氏。デジタル庁GIGAスクールアドバイザーも兼任する
「教育総合展(EDIX)東京」のセミナーに登壇した理化学研究所 経営企画部長の高谷浩樹氏。デジタル庁GIGAスクールアドバイザーも兼任する
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 講演のテーマは「GIGAスクールの先へ、デジタル庁が示す教育データ利活用ロードマップと実現への課題」。教育データの利活用は、ICT活用教育において最もホットな話題だ。2022年1月、デジタル庁と文部科学省など4省庁が合同でまとめた「教育データ利活用ロードマップ」が発表された。これについてNHKが「政府は学習履歴など個人の教育データについて、2025年ごろまでにデジタル化して一元化する仕組みを構築する」と報道したため、SNSを中心に「政府が個人の成績などのデータを一元管理するのは許されない」と猛反発が起こった。

 高谷氏はこの騒動に言及し、「国がサーバーを置いて、そこに全ての子供のデータを蓄積しようというような一元化は考えていない。国が進めているのはデータの標準化だ」と改めて説明した。報道は誤報だったわけだが、高谷氏は「デジタル庁には、まさかここで炎上するとは思わなかったという認識不足もある」と反省を述べると同時に、「個人データの利活用が社会に浸透してないことが、こうした炎上を招いているのではないか」との認識を示した。

高谷氏は、パーソナルデータの提供に対する不安感を持つ人の割合は、欧米はもとより東アジア各国と比べても日本の方が高いという調査結果を示し、「個人情報保護について、国民にしっかりと理解していただく必要がある」と指摘した
高谷氏は、パーソナルデータの提供に対する不安感を持つ人の割合は、欧米はもとより東アジア各国と比べても日本の方が高いという調査結果を示し、「個人情報保護について、国民にしっかりと理解していただく必要がある」と指摘した
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 教育データ利活用ロードマップが炎上したのは、教育データとその利用方法に対する関心の高さ、扱いの難しさを浮き彫りにした。扱いに注意を要するデータだけに、保護のルールや仕組みは必要だ。だが、個人情報保護を重視すればするほど、教育データの利活用は進まないというジレンマがある。高谷氏は「ひたすら情報を守るだけでは物事は進まない。利活用と保護のバランスを取りながら教育データの利活用を進めていく必要がある」と話した。

データはスルメと同じ

 教育データの扱い方に関する課題としては、ポータル等プラットフォームの乱立、情報と商流のロックイン、持続的な運営の不透明さの3つが挙げられた。高谷氏は「事業者によるデータの囲い込み信仰がある」として、「データそのものに価値があると考えて囲い込めば、教育データの利活用は止まってしまう」との懸念を示した。また、「データはスルメと同じ。かめばかむほど味が出るのと同様に、データはさまざまな角度で分析するほど価値が出る」と説明。「データのスコープと組み合わせを限定してしまうと価値が出ない。データの戦略的オープン構造への意識改革が必要」だと指摘した。

教育DXに向けたさまざまな製品やサービスが登場する一方で、高谷氏は「その原資はあるのか、市場の拡大は幻想ではないか」という問いも投げかけた
教育DXに向けたさまざまな製品やサービスが登場する一方で、高谷氏は「その原資はあるのか、市場の拡大は幻想ではないか」という問いも投げかけた
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 高谷氏が講演の最後に指摘したのが「市場拡大の幻想」だ。GIGAスクール構想では5000億円規模の国家予算が充てられたが、この先同様の措置は見込めない。高谷氏は「これからもどんどん教育市場が拡大していくのはなかなか難しいというのが実態」と指摘。そこで必要になるのが「教育自体のDXだけでなく、教育産業においてもDXを進めることでこれからの教育を支えてほしい」と訴えた。

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