GIGAスクール端末を生かす学習者用デジタル教科書の導入が始まった。だが、デジタル教科書の全面的な導入には、いくつものハードルを乗り越えなければならない。その中でも、高い壁になっている課題が、無償給与と検定制度だ。デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議は2021年3月に「中間まとめ」を公表したが、その中でもこれらの課題に対する結論は示されなかった。今回、この検討会議の座長を務める東北大学大学院・東京学芸大学大学院 教授の堀田龍也氏に、デジタル時代の教科書検定について聞いた。

東北大学大学院情報科学研究科 教授・東京学芸大学大学院教育学研究科 教授の堀田龍也氏は、文部科学省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で座長を務める
(撮影:渡辺慎一郎)

——現在の学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)は、紙の教科書と同じ内容しか認められず、デジタルが持つ良さを十分に発揮できていません。「国の検定に合格したのは紙の教科書だから」という理由なので、教科書検定制度もデジタルの時代に合わせて変えていく必要がありませんか。

堀田氏 教科書検定制度は、教科書の質保証に関わる重要な制度です。歴史認識や領土問題のような、国家としての立場に関係するデリケートな部分もあり、議論は慎重に進めていく必要があります。しかし、話し合うことは重要で、世の中がどんどんデジタル化していく中、教科書検定をこれからもずっと紙ベースで、人の目で続けるのかという議論はあってよいと思います。

 現在でも教科書はDTPソフトなどを使いデジタルで制作しているのですから、内容はメタデータでチェックできるのではないでしょうか。「教科書のこの記述は学習指導要領のここにつながっている」といった構造をマップ化して見られるようにすれば、検定作業は今より合理化できるでしょう。検定制度自体は変えなくても、デジタルに助けてもらって効率化できると思います。

——「中間まとめ」でも、デジタル教科書にふさわしい検定制度の検討が必要という指摘がありました。

堀田氏 「検定の情報化」が進めば、現在4年ごとに実施している教科書検定のサイクルを短くできるかもしれません。それは検定の作業が丁寧ではなくなるということではなくて、むしろ今より丁寧にできるでしょう。この変動の激しいこの時代、世の中は短い期間に大きく変わります。社会情勢に合わせて教科書に最新の話題を載せたい場合、クラウド配信のデジタル教科書なら、検定のサイクルを短くし、ソフトウエアにパッチ当てていくように修正していくことも可能ではないでしょうか。デジタル化によって検定作業の質を高めつつ、そのサイクルを短縮できると考えています。

文部科学省は学習指導要領にコードを付与し、デジタル教科書・教材とひも付けられるようにしている。デジタル教科書の各記述にコードが記録されていれば、学習指導要領との対応関係を機械的にチェックできるはずだ
(出所:文部科学省「学習指導要領のコード化(案)について」)

 堀田氏が指摘する「検定の情報化」は新しい視点だ。紙の教科書を隈なくチェックする作業は膨大な時間を要するが、デジタル教科書とコード付与した学習指導要領の組み合わせであれば、教科書が学習指導要領の内容を網羅しているかどうかは機械的に判定できる。人の目が不要になることはないが、少なくとも作業の効率化は可能だ。デジタルとクラウドの特性を生かし、常に最新の情報が載った教科書を使えることは、児童・生徒にとって大きなプラスになる。ただし、デジタル教科書ならではマルチメディア性などを生かすためには、さらに一歩踏み込んでデジタル版を底本とした教科書検定制度が必要だろう。

※一部表現を変更しました(2021年5月18日18:00)