2022年5月18日、刑法の侮辱罪を厳罰化する改正案が成立する見通しとなった。インターネット上のSNSなどに書き込まれた誹謗(ひぼう)中傷は、それが原因で自殺者が出るなど社会問題化し、刑法の見直し議論に発展した。誹謗中傷に限らず、ネット上ではいじめや迷惑行為がしばしば問題になっている。フェイクニュースや犯罪情報といった子供たちには触れさせたくないコンテンツも多い。

 このため、学校ではパソコンやスマホなどのデジタル機器やインターネットを“厄介者”として扱ってきた。多くの小中学校では、情報モラル教育として「〇〇してはいけません」「××にならないよう注意しましょう」といった指導がされてきた。特に生活指導が入る中学校において、その傾向は顕著だという。

文部科学省の「情報モラル学習サイト」では、このような教材が提供されている。当然、こうした指導も必要だが、現実の社会では簡単には答えが出ないことがたくさんある。たとえ正解がなくても、自分の頭で考えることが最も大事だろう
文部科学省の「情報モラル学習サイト」では、このような教材が提供されている。当然、こうした指導も必要だが、現実の社会では簡単には答えが出ないことがたくさんある。たとえ正解がなくても、自分の頭で考えることが最も大事だろう
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 情報教育論を研究する法政大学キャリアデザイン学部 教授の坂本旬氏は、「禁止的・抑制的な発想の教育は、『それはやってはいけませんと指導しました』という言い訳にしかならず、子供たちを助けられない」と指摘する。GIGAスクール構想によって、全国の小中学校に1人1台のコンピューターが整備された今、端末を学校の内外を問わず活用し、情報活用能力を身に付けることが求められている。だが、抑制的な情報モラル教育一辺倒では、端末活用の足かせになる恐れがある。

 そこで今、注目されているのがデジタルシティズンシップだ。ネットやデジタル機器を遠ざける傾向にある情報モラル教育に対して、デジタルシティズンシップはデジタル機器やネット利用を抜きにして現代社会は成り立たないことを前提にしている。それらをうまく使い、役立てるために必要な能力やスキルを身に付け、問題が起こったときに、その解決方法を考える力を養おうという考え方がデジタルシティズンシップだ。

 法政大学の坂本氏らは日本デジタル・シティズンシップ教育研究会を立ち上げ、セミナーや書籍出版といった情報発信、教育カリキュラムの提案などに取り組んでいる。坂本氏をはじめ、研究会のメンバーである岐阜聖徳学園大学 DX推進センター長の芳賀 高洋氏、国際大学 GLOCOM准教授の豊福晋平氏、同客員研究員の今度珠美氏らが登壇するセミナーが、2022年6月4日に「New Education Expo 2022 in 東京」において開催される。テーマはもちろん、「デジタル・シティズンシップ教育のフロンティア〜学校と家庭で育むデジタルの善き使い手となるための学び〜」だ。イベントとセミナーの詳細はこちら。

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