茨城県つくば市は2020年5月22日、市内の義務教育学校において分散登校に対応した遠隔授業の実証を開始した。市が700台のパソコンとモバイルルーターを用意して児童・生徒に貸与し、校内・校外の授業で活用する。今後、実証を通じて得た知見を基に市内の各校に広げていく。同日、みどりの学園義務教育学校において最初の授業を公開した。

授業の初めに、生徒が自身を撮影した画像にコメントを書き添えてスタディノートにアップロードし、自宅で授業を受けている生徒も含めて元気であることを確かめ合う。朝の会ではZoomも使う

 みどりの学園義務教育学校は分散登校で授業を再開した。例えば9年生(中学3年生)の2クラスは、1日おきに交互に登校し、自宅学習の日はパソコンを使って遠隔で授業を受ける。何らかの理由で登校できない児童・生徒も、登校日の授業を遠隔で受けられる。授業にはオンライン会議サービスの「Zoom」と学習支援ソフト「STUDYNOTE(スタディノート)」を使う。今回、スタディノートは校外からでも利用できるように、これまでの校内サーバーからクラウドに移行した。自宅で学習するにはインターネット接続が必要になるため、ネット回線がない家庭にはモバイルルーターを貸し出す。

生徒はタブレット型のパソコンとペンで課題に取り組む。多くの生徒は戸惑う様子もなくパソコンを使っていた

 公開された数学の授業では、教員が課題を出し、生徒はパソコンで課題を受け取って取り組む。パソコンだけを使うわけではなく、紙の教科書とノートも併用していた。解いた課題を提出すると、大型提示装置に全員の解答が表示される。自宅での様子は分からなかったが、生徒のパソコンでは同じように課題が出され、教員の解説も配信されているはずだ。

生徒たちが提出した解答が大型提示装置に表示され、教員はそれを見て確認したり解説したりする

 こうした授業スタイルにより、分散登校や今後起こりうる休校でも児童・生徒の学習継続を目指す。つくば市の五十嵐立青市長は、遠隔授業の意義について「新型コロナ以前の授業に戻すのではなく、一人ひとりの学ぶ意識に応える教育にする」と説明。実証授業が始まったことを受けて「シームレスな学びを始められた」と評価した。

つくば市市長の五十嵐立青氏は公開授業の後で会見した

遠隔授業には課題も残る

 つくば市は小学校におけるプログラミング教育で先行し、独自のカリキュラムを整備するなど、先進的なICT活用で知られる。それだけにICT環境整備でも進んでいると思われがちだが、実際にはコンピューターの整備率は8人に1台にとどまり、文部科学省が目安としてきた3クラスに1クラス分にも及ばない。GIGAスクール構想による1人1台端末を整備する予算が措置されたことで、同市は前倒しで端末整備を進めると同時に、500台のモバイルルーターを確保した。同市の小中学生は約2万人で、その3%は家庭にインターネット接続回線がないという。モバイルルーターは今後700台を用意し、パソコンとセットで児童・生徒に貸し出す予定だ。

つくば市総合教育研究所で情報担当指導主事を務める中村めぐみ氏

 新型コロナウイルスによる感染症対策で多くの学校が休校する中、学びを継続する手段としての遠隔授業やオンライン学習が注目されている。一方で、セキュリティの懸念をはじめ、家庭での負担増や回線事情、データ通信量の増大、教員のスキル不足といったさまざまな課題も見えてきた。

 つくば市も同様で、同市総合教育研究所 情報担当指導主事の中村めぐみ氏は、「1人1アカウントの環境ではIDとパスワードの管理は課題になる。今後は運用しつつセキュリティ対策を見極めて、市内に広げていきたい」と話す。モバイルルーターを確保したものの、市が負担する通信料金も重荷だ。今回の授業でZoomのビデオ機能を使っていなかったのも、データ通信量が爆発するのを防ぐためだという。教員のスキルについて中村氏は、「教員研修はすでにオンラインで実施しているが、今後は市内のほかの学校でも同様の授業ができるように教員研修を年内に終え、2020年度中には全校での実施を目指す」としている。