少し前の話だが、2022年1月にデジタル庁が発表した「教育データ利活用ロードマップ」について報道されると、SNSを中心に猛反発が起こり、いわゆる炎上騒ぎになった。火元はNHKの報道で、「政府は学習履歴など個人の教育データについて、2025年ごろまでにデジタル化して一元化する仕組みを構築する」と伝えた。これに対して牧島大臣は記者会見で「一元化ではない」と否定するなど火消しに追われた。

「教育データ利活用ロードマップ」を発表した4日後、牧島大臣は「政府が学習履歴を含めた個人教育データを一元管理することは全く考えていない」と説明した
「教育データ利活用ロードマップ」を発表した4日後、牧島大臣は「政府が学習履歴を含めた個人教育データを一元管理することは全く考えていない」と説明した

 これは誤報で、政府が教育データを一元管理する計画はない。それどころか実際は正反対で、ロードマップでは情報銀行やPDS(Personal Data Store)の仕組みを念頭に、データを分散保存・管理することを想定している。ロードマップで必要性を訴えていたのは、教育データの「標準化」であって「一元化」ではない。

 教育データを標準化する必要性については、本サイトの記事や当社発行のムック「よく分かる教育DX」(下記)に詳しく解説したので割愛する。ここでは、なぜロードマップが炎上したのかを改めて考えてみる。それは、教育データの利活用に向けた課題の解決方法を考えることにもなるはずだ。

教育データの収集と利用にまつわる懸念
教育データの収集と利用にまつわる懸念
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(1)個人情報を含むデータ利用に対する国民の不安
 きっかけは誤った報道だったとしても、炎上騒ぎにまでなった理由は「自分や子供の学習・成績情報を国に握られるのは嫌だ」「成績情報が漏えいしたり、勝手に使われたりするのは困る」という国民感情だ。教育データには学習の特性やテスト結果など、普通は他人に知られたくない情報も含まれるだけに、センシティブになるのは当然。一元管理か分散管理かに関係なく、教育データのセキュリティ対策や利用法に関するハード・ソフト両面での整備は必要だ。それができなければ、教育データの利活用というステップには進めない。

 慶應義塾大学 教授で、デジタル庁において教育ロードマップに携わった中室牧子氏は、「教育データは利用の目的を明確に示さなければならない。集めたデータにはトレーサビリティがあること、すなわちデータの使い方を国民が監視できる仕組みが必要だ」と提言している。教育データを利活用する学校、地方自治体(学校の設置者)、国や研究機関は、データの収集範囲、流通範囲、利用目的、保存期間、管理方法、コントロール性などを明らかにし、学習者と保護者に対して丁寧な説明をすることが求められる。

(2)国主導の仕組みに対する不信感
 教育データを国が管理するという点に反発があったことを考えると、国主導の仕組みや運用に対する不信感もありそうだ。政府がさまざまな普及促進策を実施しながら、いまだにマイナンバーカードの普及率が低迷しているのは、国民の不信感が根底にあるという見方がある。同様の感情を教育データの利活用に関して抱いても不思議ではない。

 特に文部科学省については、大学入試改革の柱の一つとして主体性などを評価する仕組み「JAPAN e-Portfolio(ジャパン・イー・ポートフォリオ)」を立ち上げたものの、1年あまりで運用停止に至るという失敗をしている。運用していたサイトには高校生が個人情報やポートフォリオデータを登録していたが、サイトの閉鎖とともに全て削除されている。