2021年6月3日|〜5日に、東京・有明で「第26回 New Education Expo 2021(以下NEE)」(New Education Expo実行委員会主催)が開催された。6月4日には、国が進める大学・高等専門学校全ての学生を対象にAI(人工知能)教育を導入する方針に関して、「対応待ったなし、大学・高専の「AI教育」の進め方〜全学対象の認定制度がスタート〜」というテーマのセミナーを開催した。

 日経BPコンシューマーメディアユニットの中野淳ユニット長補佐がコーディネーターを務め、文部科学省 高等教育局専門教育課 企画官の服部正氏、関西学院大学副学長 情報化推進機構 機構長/工学部 情報工学課程 教授の巳波弘佳氏、数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム特別委員会委員の孝忠大輔氏の3人のパネリストが、AI教育の最新事情や実践事例、導入方法を解説した。

セミナーは通常の対面方式で行われ、国が進める大学・高等専門学校の全ての学生を対象にした「AI教育」に関して議論した

 まず、日経BPの中野ユニット長補佐が、社会でAI活用が広がっていることを背景に、政府が「AI人材の育成」を強力に推進している状況を説明した。政府は、大学や高等専門学校で、文系・理系を問わずAIリテラシー教育を全卒業生50万人に展開する目標を掲げている。中野ユニット長補佐は人材やノウハウが不足する中で、AI教育のカリキュラムをどのように整備するかが教育機関の大きな課題になっていると指摘した。

コーディネーターを務めた日経BPの中野ユニット長補佐は、AI教育の現状について解説し、大学教育の中で取り組むべき課題を説明した

政府が進めるAI戦略プログラム

 文部科学省の服部企画官は、政府が進めている「数理・データサイエンス・AI教育プログラムの推進」について解説した。政府が2019年6月にまとめた「AI戦略2019」の教育改革では、デジタル社会の「読み・書き・そろばん」とも言える「数理・データサイエンス・AI」の基礎などの必要な力を全国民が育み、あらゆる社会分野で人材が活躍するため、2025年を目標に大学・高専卒業者50万人が初級レベルの能力を取得できるようにする。さらに、大学・高専卒業生の半分に当たる25万人は、自らの専門分野への応用基礎力を身に付けられるようにする。

文部科学省 高等教育局専門教育課 企画官の服部正氏
政府は「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を推進している

 全国の大学が参加する「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」では、拠点校6大学(北海道大学、東京大学、滋賀大学、大阪大学、京都大学、九州大学)が、標準カリキュラム・教材を協働して作成するとともに、他大学への普及方策(例えば全国的なシンポジウムの開催など)の検討・実施をしている。また、協力校・特定分野協力校30大学が全国の大学への普及・展開、教員養成のためのワークショップなどの取り組みも進めている。

数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムは全国を6ブロックに分け、拠点校6校、協力校23校、特定分野協力校7校、連携校78校の114校が会員校として参加している

 全ての大学・高専の正規課程のうち優れた教育プログラムを政府が認定する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」(MDASH認定)も策定した。全学で開講するAI授業プログラムを対象に、学生の履修率や受講学生の比率に応じて「認定教育プログラム (MDASH-Literacy)」と「認定教育プログラム プラス (MDASH-Literacy+)」があり、2021年度は86件(うちプラスの申請は36件)の申請があった。初回認定は2021年7月までに公表される予定だ。

数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(MDASH認定)は2021年7月までに全ての認定・選定を公表する予定。認定校は専用のロゴマークなどを利用し、学生や受験生などにアピールできるようになる

関西学院大は「AI活用人材育成プログラム」全学導入

 関西学院大学の巳波副学長は、同大が実践する文理横断型のAI活用人材育成プログラムを紹介した。

 巳波氏は、「AIを活用した新サービス・新製品の企画」や「顧客ニーズの把握」といったスキルの大切さを指摘。AIに関わる人材を、新技術などの研究を進める「AI研究・開発者」、AIを活用したシステムを開発したりデータを分析したりする「AIスペシャリスト」、AIを活用したサービスや製品を企画・提供する「AIユーザー」に分類し、AIスペシャリストやAIユーザーが大幅に不足すると指摘。AI活用人材を「文系・理系を問わず、AI・データサイエンス関連の知識を持ち、それを活用して現実の社会課題・ビジネス課題を解決する能力を有する人材」と位置付け、人材育成の重要性を訴えた。

関西学院大学副学長 情報化推進機構 機構長/工学部 情報工学課程 教授の巳波弘佳氏
関西学院大学の巳波副学長は、実社会でAIを使えるようにシステム開発したりデータを分析したりする「AIスペシャリスト」、AIを活用したサービスや製品を企画・提供する「AIユーザー」を育成する重要性を訴えた

 同大では2018年に日本IBMとAI共同プロジェクトを発足させ、全科目を新規開発した「AI活用人材育成プログラム」を2019年4月に開講した。プログラムは受講生全員が学ぶ「AI活用入門」に続いて、「導入演習」や「実践演習」に進み「発展演習」へと続く。

関西学院大学全学で導入した「AI活用人材育成プログラム」

 2021年度には、全てオンライン上で授業が完結するeラーニング「バーチャルラーニング」で入門科目を受講できるようにし、教員が直接指導する高度な演習や課題解決型学習(PBL)と組み合わせて、効率的な授業運営を進めることで、全学で多人数の学生が受講できるようにした。2021年度は入門科目の「AI活用入門」は全学部から2000人を超える履修申し込みがあり、男女比はほぼ半々という。

 バーチャルラーニングに関しては学外にも有償で提供する。ほかの大学や企業でも同大が授業で実施しているプログラムを受講することができる。

 巳波副学長は「AI人材育成は理系中心のプログラムになりがちだが、文系学生の方が社会課題の解決にAIを活用する視点を持っている場合もある。文系・理系の枠を超えて、全学開講科目として多くの学生に目を向けてもらうのが大切」と話した。