コンピューターを活用した授業の急速な広がりを受け、ラーニングアナリティクス(学習分析)への期待が高まっている。学習者の属性、学習履歴、成績といった教育データを分析することで、個人に最適な学習環境を提供したり、ビッグデータ解析によって授業や教育行政を改善したりできると言われる。2021年6月3日〜5日に東京・有明で開催された「New Education Expo 2021」のセミナーにおいて、高等学校と中学校で生徒の学習行動を分析した事例が発表された。
発表したのは、京都市立西京高等学校 教諭の芳賀康大氏と同附属中学校 主幹教諭の宮部剛氏。西京高等学校では、英語の授業において京都大学 学術情報メディアセンター教授の緒方広明氏と協力し、教材配信システム「BookRoll」を使って学習履歴を収集・分析した。
BookRollで配信した教材には生徒がマーキングやメモを追加できる。一方教員は、生徒がどの教材をどこまで閲覧したか、どこにマーキングをしたか、どのページにメモを書いたかといった学習行動の履歴を閲覧できる。芳賀氏は「生徒にマーキングの指示を与えることで、多くの生徒が分からないとした単語や大事だと考えた文章を英文上で可視化でき、指示を変えれば、さまざまな要素を調べられる」と説明する。
もちろん、こうした手法を使わなくても、小テストの実施や机間巡視によって、クラス全体のレベルの把握や理解度が不足している生徒の発見は可能だ。しかし、芳賀氏は「多くの生徒を見る授業では限界があり、旧来の方法では教員の経験不足を補えない」と指摘する。問題を抱える生徒を授業中に発見して適切な指導をするには、教員にそれなりの経験が必要だろう。これに対して教育データを利活用する授業では、「クラス全体の傾向も生徒個人の状況も把握でき、指導に生かせる」(芳賀氏)。
西京高等学校附属中学校の宮部氏は、学校休業(休校)になった期間に実施した「紙芝居形式の授業」において実践した学習履歴の分析について発表した。紙芝居形式とは、授業のエッセンスをまとめた教材を用い、生徒が自身の理解度に応じて学習を進めていくオンデマンド形式の授業のこと。生徒はBookRollで配信される教材をタブレット端末で開いておき、ノートに書き込んだり問題を解いたりする。教員は分析ツールを使って教材の閲覧履歴を確認できる。
宮部氏は「分析ツールを使うと、長い休校期間中に学習時間が徐々に減っていることが分かった。生徒のモチベーション低下を分析ツールで発見すれば、タイミング良く学習の刺激を与えることが可能」と振り返る。家庭学習、特に休校になった場合の学習について、進度や理解度を教員が把握するのは難しい。しかし、教員が学習履歴を把握していれば、問題のある生徒に対して電話をかけたり、メッセージを送ったりして迅速に支援できる。