GIGAスクール構想によるICT環境整備が終わり、学校では児童・生徒が各自の端末を使って学ぶ時代が始まった。ところが現実には、ICTを活用した学びを進められない自治体や学校が少なくない。このコラムでは、GIGAスクール構想の立ち上げ時に文部科学省で担当課長を務め、構想実現の意義を全国で説いて回った高谷浩樹氏が、いま改めてGIGAスクール構想の理念を確認し、学校や教員はどのように取り組んだらよいのかを語る。前後編の2回に分けてお届けする。

 1人1台端末というGIGAスクール構想が始まり2年が過ぎました。利活用が順調に進んでいる学校も多くある一方、使ったという実績は作ったものの、その後が進まない学校もあると聞きます。GIGAスクール構想の立ち上げ当時、私は文部科学省の担当でした。最近、なぜGIGAスクール構想を進めることになったのか、その理念についていま一度聞かせてほしいとの話をいただくことが多くなりました。

高谷浩樹氏のプロフィル:理化学研究所 経営企画部長、デジタル庁 GIGAスクールアドバイザー。2018年〜2020年に文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長を務め、GIGAスクール構想の立ち上げを担当した
高谷浩樹氏のプロフィル:理化学研究所 経営企画部長、デジタル庁 GIGAスクールアドバイザー。2018年〜2020年に文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長を務め、GIGAスクール構想の立ち上げを担当した

なぜGIGAスクール構想だったのか

 答えを言えば、GIGAスクールの理念は、そのキックオフとして2019年(令和元年)12月に文部科学省で開催されたGIGAスクール実現推進本部で、当時の萩生田文部科学大臣から出されたメッセージ「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて〜令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境〜」に集約されています。大臣を筆頭に当時の関係者の思いが全て込められたメッセージになっており、今でも文部科学省の「GIGAスクール構想について」のWebページで見られます。

2019年に出された大臣メッセージ。「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて〜令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境〜」
2019年に出された大臣メッセージ。「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて〜令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境〜」
(出所:文部科学省)

 GIGAスクール構想が動いた根底にあるのは、タイトルの副題にもある「令和時代のスタンダート」という表現です。前段には「今や、仕事でも家庭でも、社会のあらゆる場所でICTの活用が日常のもの」であり、「子供たちの可能性を広げる場所である学校が、時代に取り残され、世界からも遅れたままではいられません」とあります。学校でのICT活用が時代からも、世界からも遅れていたことは、文部科学省の調査やOECD/PISA調査などから明らかでした。

諸外国に比べ、日本はデジタル機器を学習に生かしていないという調査結果
諸外国に比べ、日本はデジタル機器を学習に生かしていないという調査結果
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 この意図するところは、今回のGIGAスクール構想がICTという「新しいものが追加される」というよりも、世の中では当たり前だが学校では「足りなかった」ICTを取り入れ、学校でも「世の中に追いつく」と捉えたの方がより正しいと思います。

 駅の改札で多くの通勤客の切符をハサミで見事に切っていく駅員、集中する口座取引を1円の間違いもなく迅速に処理する銀行員——。昭和であればその技量に称賛が集まりました。しかし、デジタルネーティブ世代が活躍する令和時代でも変わらなかったとしたら、「なぜ自動改札やATMを導入しないのか」と、社会の理解は得られなくなっています。Society 5.0において人は、デジタル技術が代替しえない、よりクリエーティブな役割を担う社会です。

 学校教育も、その本質は子供たちに対するクリエーティブな活動のはずです。しかし、その実態が日々の業務に追われて多忙だということは、文部科学省がSNSで呼びかけた「教師のバトン」プロジェクトによる初期の炎上からも見て取れます。コロナ禍でプリント配布だけ、保護者との連絡が紙の連絡帳だけ、授業が「覚えること」を板書する講義だけでは、それらが令和時代の社会からの期待に応えているとは言えないでしょう。

文部科学省は2019年12月、「GIGAスクール実現推進本部」を設置して大臣メッセージを発信した
文部科学省は2019年12月、「GIGAスクール実現推進本部」を設置して大臣メッセージを発信した
(出所:文部科学省「GIGAスクール実現推進本部について」)
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 大臣メッセージにある通り、まずはICTで「授業準備や成績処理等の負担軽減」を実現したうえで、教育というクリエーティブな活動において、ICTという道具を駆使して「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む」とともに「特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げる」ことを“学校での当たり前”、つまり「令和のスタンダード」にすることがGIGAスクール構想の目的です。

ICTがスタンダートになりつつある学校の姿

 今や多くの学校では、GIGAスクール構想が目指した最初の姿が実現しつつあると聞いています。挙手するような積極的な児童・生徒の意見しか皆に触れられなかったクラスの学び合いが、クラウドサービスを活用した標準アプリだけで、全員の意見を一瞬にして共有できるようになっています。それだけでも、これまで見られなかった全ての児童・生徒同士の学び合いが実現します。

 さらに、画面共有機能を使って、クラス内外の誰とでも共同作業が容易に実現しています。図書室にこもらずともインターネットを通じてさまざまな調べものができる環境になっています。児童・生徒が自らのペースで学びを進めていっても、教師は画面を通じて把握でき、さらに画面を通じて個別指導も行われています。

コンピューターとネットワークを使って生徒の学習プロセスを共有する例(これは専用アプリを使用)
コンピューターとネットワークを使って生徒の学習プロセスを共有する例(これは専用アプリを使用)
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 これらはいずれも、現行の学習指導要領にある主体的、対話的で深い学びにつながるICTの活用法で、既に多くの学校で実践されている例です。いずれも従来の黒板と紙のみでは実現は難しく、コンピューターとクラウドというICTの活用により初めて実現できることです。また、これらは端末が搭載した標準のアプリだけで十分始められます。何ら特別ではなく、令和時代の世の中で当たり前と言える使い方を学びに応用するだけでも、大臣メッセージにある「創造性を育む」学びが実現している点も注目に値します。

 同じく大臣メッセージにある「授業準備や成績処理等の負担軽減」にも役立っている例が多くあります。教職員の打ち合わせがオンラインやチャットで行われるようになり、情報を容易に共有できるようになりました。さまざまな資料をクラウドに保存することで、場所を選ぶことなくどこでも編集作業が可能となるとともに、必要な関係者との資料の共有も手間が大きく削減されるといった例もあります。こうした結果、学校現場からは以前ほど校務が多忙でなくなり、授業に集中できるようになってきたとの声を聞くようになりました。

授業から校務、学外活動まで、ICTを活用して時短できるシーンは多い
授業から校務、学外活動まで、ICTを活用して時短できるシーンは多い
(出所:文部科学省「改訂版 全国の学校における働き方改革事例集」)
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 保護者とのやり取りもプリントからメールなどネットになることで、「欠席などの必要な連絡がとても楽になった」「学校の様子なども迅速に分かり透明性が上がった」など、保護者からの好意的な反応も寄せられています。ここに至るまでの、教職員をはじめ、学校関係の皆さまの努力に感謝と敬意を表します。