2021年6月3日〜5日にかけて、東京・有明で「第26回 New Education Expo 2021」(New Education Expo実行委員会主催)が開催された。セミナーの一つで、2024年度に本格導入が見込まれている学習者用デジタル教科書(以下デジタル教科書)について、「学習者用デジタル教科書の現状と今後〜1人1台端末の更なる活用〜」ではデジタル教科書の現状と実践事例などが紹介された。

放送大学教授の中川一史氏をコーディネーターに、文部科学省 初等中等教育局教科書課 課長の神山弘氏と、東京学芸大学附属小金井小学校 教諭の鈴木秀樹氏がパネリストを務めた

 まず、コーディネーターを務める放送大学教授の中川一史氏は、「学校現場でのICT化について、環境と制度は国の施策を受けて自治体での取り組みも進みつつある。一方で、活用とスキルについては、まさにこれからの状態だ。児童・生徒のスキルを高めるために普段使いをどう増やし、教員研修をどう充実させ、授業の中で活用できるようにしていくのかは大きな課題。デジタル教科書は、このICT環境の上で利用するもので、今後どうなっていくのかを議論していきたい」と話した。

文部科学省による有識者会議「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で委員を務める中川一史氏の発表資料

 続いて、文部科学省初等中等教育局教科書課教科書課長の神山弘氏は、デジタル教科書の現在の状況について説明した。現在、デジタル教科書が発行されているのは小学校の教科書では305点中287点(2020年度)、中学校で145点中138点と90%を超えている。一方で、公立小中学校・高等学校でデジタル教科書を1冊でも使っている学校は2617校で、全体の7.9%(2020年3月時点)とまだ少ない。

 紙の教科書は国からの無償給与の対象だが、デジタル教科書は対象外。公費負担が発生するため、導入をためらう自治体が多いのではないかと指摘した。そのため、文部科学省では2021年度に1人1台端末の環境が整っている小中学校を対象に、デジタル教科書を提供して普及促進を図る20億円規模の実証事業を進めている。これにより全国の4割程度の学校がデジタル教科書を利用することになるという。

 文部科学省では次の教科書改訂時期となる2024年度に本格導入することを見据えて、有識者会議「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で検討を進めている。2021年3月に議論の状況に関して中間まとめを公表し、2021年6月に第1次報告を公開した。夏ごろまでには報告書として取りまとめる予定だ。

東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹氏の発表資料

 東京学芸大学附属小金井小学校 教諭の鈴木秀樹氏は、学校現場で実際にデジタル教科書を活用した授業の状況などについて紹介した。鈴木氏はデジタル教科書に関して、さまざまな誤解や事実誤認があることや、現状で提供されているデジタル教科書は玉石混交で品質にも差があること、デジタル教科書を授業に活用する実践の情報発信が不足していることなどが、デジタル教科書の導入に対する懸念を引き起こしていると指摘した。

東京学芸大学附属小金井小学校で国語の授業にデジタル教科書を使った事例。「Teams」を通じて議論しながら教科書から文章の一部を抜き出していく。デジタルならではの使い方だ
(出所:東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹氏の発表資料)

 同校で光村図書の6年国語のデジタル教科書を使い、「時計の時間と心の時間」の単元でICT環境を活用した授業の実践例を説明。児童が端末でデジタル教科書を表示し、組み込まれた動画を視聴したり、ほかのアプリやサービスを利用したりして、児童同士が議論を深めていく様子をビデオで紹介した。

上記と同じ活動だが、こちらでは図も含めて抜き出してまとめている
(出所:東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹氏の発表資料)

 鈴木氏はデジタル教科書だけではなく、さまざまなアプリと組み合わせて授業を進めていくことが重要と話した。例えば、「Teams」を使ってグループ学習をしたり、デジタルホワイトボードを使って考えを共有したりするなど、何の目的のためにどのアプリと組み合わせて使うかを考えて教員が授業を進めることで、より効果的な学びを実践できると説明した。