このコラムでは、GIGAスクール構想の立ち上げ時に文部科学省で担当課長を務め、構想実現の意義を全国で説いて回った高谷浩樹氏が、いま改めてGIGAスクール構想の理念を確認し、学校や教員はどのように取り組んだらよいのかを語る。後編は個別最適化された学びについて、社会的背景から解説する。

 GIGAスクール構想で進んでいく教育のICT化において、いまだ取り組みが途上で、今後最も可能性を秘めているのがデータの利活用による「子供たち一人ひとりに個別最適化され」た学びです。

データ活用でSociety 5.0へと向かう

 今やデータは、私たちの日常生活から農業、工業、サービス業など社会のあらゆる分野において、欠かせないものとなっています。農業は一見デジタルデータとは縁遠いイメージもあるかもしれませんが、作業を効率化・無人化しつつ、気温や湿度の情報から環境を管理して生産性を上げるスマート農業が、既に広く展開されつつあります。

 小売業における顧客の購買情報は、仕入れから商品の陳列など各種セールス向上に大きく反映され、店舗の収入増につながっています。車や公共交通機関のナビゲーションも、個人の現在地、目的地の情報と道路や交通機関の情報を組み合わせて最適な結果を表示してくれます。あらゆる事務作業もデジタルデータによる利便性が追究され、連日「クラウド」をうたったサービスのCMが流れています。

 これらは全て、実際に私たちが生活している世界(フィジカル空間)のさまざまな情報、データがクラウドなどデジタル世界(サイバー空間)に送られ、それらデータをAI(人工知能)で分析した結果が高付加価値な情報として実空間に戻って、現実の行動につながるという大きな流れになっています。

情報社会とSociety 5.0の違い
情報社会とSociety 5.0の違い
(出所:内閣府作成資料)
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 このようなデータの流れは、私たちの生活様式はもとより、社会構造そのものまで大きく変えつつあります。前編でも触れましたが、生産性、効率性が上がる中、人間はより創造性豊かな、クリエーティブな活動に従事することとなります。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の大きな社会の変革という意味でSociety 5.0と呼ばれます。

教育におけるデータの現状とデータ駆動型教育

 ところが、教育分野ではICT利活用そのものが大きく遅れていたこともあり、これまでこのようなデータの価値が注目されることはほとんどありませんでした。

 実際、学校に目を向けてみると、指導要録や成績表から子供たちのテストの解答、作文や図画、連絡帳に至るまで、既にデータは膨大に存在しています。ただ、それらは紙(アナログ)で、いったん役割を終えればロッカー内に積み上げられてほこりを被っていくか、家庭に持ち帰られて終わりというものが大半。後から探し出すにもひと苦労といった状態です。とても、それらを満足に管理して教育向上のために有効活用しているとは言えない状況ではないでしょうか。

 しかし、これらの紙の情報がデジタルデータとして作られ、保存されるようになればどうでしょう。

 まずは保管や再活用が格段に容易になるメリットがあります。クラウド上にデータを保存すれば、学校側が保管場所や保管状態を意識する必要はなくなります。過去のデータも積み上げられた書類の山をかき分けて引っ張り出す必要はなく、検索機能ですぐに見つけられます。アクセスできる権限と端末があれば、職員室の特定の机といった作業場所にとらわれることもなく、どこからでもデータを参照できます。さらに、万一学校が被災するような不幸があっても、これらデータには何の影響もなく、すぐにも利用を再開可能です。

 このような既存のアナログデータのデジタル化だけではありません。1人1台端末環境が実現する中、子供たちが端末を普段使いすることで、新規に大量のデジタルデータが生み出されはじめています。子供たちが書き込んだ文章、作成した資料、クラス内でのコミュニケーションツールでのやり取りは全てデジタルデータとして保存が可能です。さらには子供たちがアプリなどにアクセスするログも本来は貴重な情報です。

日本学術会議が例示した学習データの種類
日本学術会議が例示した学習データの種類
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 これからのデータ利活用の神髄は、他分野のビッグデータと同様、これらさまざまなデータから導き出される結果を用いて子供たち一人ひとりの教育を直接支援することが可能になることです。これこそが、2021年に教育再生実行会議が第十二次提言で提唱した「データ駆動型教育」です。これにより、Society 5.0で教育そのものの在り方が変わる、教育のデジタルトランスフォーメーション、教育DXへと向かっていくことになります。