文部科学省において国の教育行政に携わりながら、2020年に神奈川県鎌倉市の教育長に転じた岩岡寛人氏は、全国的に見てもユニークな存在だ。UCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の公共政策大学院で教育経済学を学び、教育分野で計量経済学的な手法を用いてエビデンス(証拠、根拠)を見いだすことの意義を知ったという。そんな岩岡氏に、教育データ利活用への期待と課題を聞いた。

岩岡寛人氏は35歳(当時)という若さで神奈川県鎌倉市の教育長に就任した。もともとは文部科学省の官僚で、任期後は中央省庁での活躍が期待される
岩岡寛人氏は35歳(当時)という若さで神奈川県鎌倉市の教育長に就任した。もともとは文部科学省の官僚で、任期後は中央省庁での活躍が期待される
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 GIGAスクールの1人1台端末によって学習者の活動履歴などの教育データを個別に蓄積できるようになり、その利活用が各地で始まりつつある。例えば、データを分析して得たエビデンスに基づき、学習者一人ひとりに合った学習方法や教材の提示に結び付ける個別最適化などが期待されている。

岩岡氏——教育データの利活用にはいくつかの方向性があると思っています。全国学力・学習状況調査のようなテスト結果などを分析し、どういった指導が学力に影響するのかを学校単位で調べることができるでしょう。ただし、意味のあるデータを取るには、児童・生徒を個別に経年で追う必要があります。

 データの信頼性も課題です。子供の学力に影響するのは授業や学習の内容だけでなく、家庭環境の変化や行政の支援策の有無など、さまざまな要素があります。そもそも、テスト自体のぶれもあるでしょう。データの分析だけで教育の効果を測るのは難しい面があります。

データを連携して子供たち一人ひとりを支援

岩岡氏——現実に先生が必要としているのは、児童・生徒の一人ひとりに合った指導や支援です。子供に関連するデータとしては、テスト結果だけではなく、出欠状況や保健室の利用履歴、健康状態、個別の発言など多様な形の情報があります。非構造データも含めて各種データを連携してAI(人工知能)に学習させ、教師に「この子にはどういう指導すればよいか?」といった積極的なリコメンドができるようなデータ活用が必要だと思います。私は教育データの利活用で一番大事なことは、子供たちのウェルビーイング(心身および社会的に満たされた状態)に資することだと考えています。

鎌倉市とセゾン情報システムズが共同で取り組む教育データ可視化システムの概要
鎌倉市とセゾン情報システムズが共同で取り組む教育データ可視化システムの概要
(出所:セゾン情報システムズ)
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岩岡氏——今の公立小中学校は教職員の年齢構成がいびつです。若い教員が多く、学年にベテラン教員が1人もいないケースが多々あります。子供たちの状況に何か変化があったとき、それがリスクをはらんでいるかどうか、答え合わせをしてくれる人がいないわけです。「もしかしたら家庭に問題があるのかもしれない」とか、「子供自身が何かの悩みを抱えているのではないか」とか、そういった個別の細かなところまで教師が一人で気付いていくのは難しい状況になってきていると聞いています。教育データ利活用の例で言えば、 不登校になった子供のパターンなどをAIに学習させ、「子供のこの状況は、もしかしたら不登校に陥る可能性が高いのではないか」と教師に注意喚起をするといったことが考えられます。

 鎌倉市では、子供に関わる一元的な相談窓口の創設に向けて動いています。その流れの中で、教育・福祉など子供に関わるデータの連携・共有の在り方について検討を進めているところです。 ただ、データ連携基盤を作るにはお金がかかり、自治体ごとに用意するのは現実的ではありません。どの校務支援システムのデータでも連携できる教育データ連携基盤のような仕組みが必要です。