日本教育情報化振興会(JAPEC&CEC)は2020年7月4日、「Withコロナ×GIGAスクール構想における公教育の転機と課題」と題して、現在の公教育が抱える課題と現状認識、将来に向けての期待などを意見交換するオンライン・イベントを開催した。

 小中学校・高等学校などの教育機関は、新型コロナウイルス感染症拡大による休業や分割登校などを余儀なくされている。今後の第二波や冬場に向けて懸念される再流行への対策も急がれる。

 一方、文部科学省は、児童・生徒1人1台のコンピューター端末と校内の高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」を推進している。同構想は、緊急経済対策の一環で2020年度中の前倒し整備が決まり、学校教育の情報化が一気に進むとの期待も高まっている。

 今回のイベントでは教育行政、教育現場、地方議員、教育メディアのパネリストがビデオ会議システム「Zoom」で参加し、ディスカッションの様子を「YouTubeライブ」によりインターネット中継する形で実施した。

日本教育情報化振興会(JAPEC&CEC)が主催するオンライン・イベント「Withコロナ×GIGAスクール構想における公教育の転機と課題」
出所:YouTubeライブのライブ配信

 パネル・ディスカッションは、国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM) 准教授・主幹研究員の豊福晋平氏がファシリテーターを務め、以下の有識者がパネリストとして参加した。

横浜市立南本宿小学校 校長 西尾琢郎氏
鴻巣市教育委員会教育部教育総務課 新井亮裕氏
姫路市教育委員会総合教育センター 指導主事 坂田怜輝氏
逗子市市議会議長 丸山治章氏
インプレス「こどもとIT」編集記者 神谷加代氏
学校業務改善アドバイザー 妹尾昌俊氏
文部科学省 初等中等教育局 視学官 安彦広斉氏
日経BP コンシューマーメディア局 中野淳局長補佐

ICT整備状況の違いで、休校中の対応に大差

 新型コロナウイルス感染症対策で、2月27日に政府から全国の小中学校・高等学校・特別支援学校に臨時休校要請が出され、4月の新学期以降も緊急事態宣言が発出されたことでほぼ3カ月にわたって公立校の休業が続いた。

 子供を学校に通わせる親の立場で、家庭でのインパクトはどうだったのか、インプレス「こどもとIT」編集記者の神谷加代氏は状況を語った。
「子供は公立中学に通っているが、休校要請が出されて学校からの緊急メールで、今後の連絡は学校のWebサイトを通じて行うという連絡が入った。それ以降4月中旬まで学校との連絡がほぼ途絶えてしまった。4月中旬には教科書配布や新しいクラス発表があって担任の教員から連絡をもらったが、子供同士が顔合わせできたのは大型連休明けのオンラインでの朝の会だった。通常4月は学校でも教師や友人と新しい人間関係を築く時期で、子供にとっては大きな不安だったようだ。保護者としても大変なストレスを感じた」。

 同じく高校生と中学生の2人の子供がいる文部科学省初等中等教育局視学官の安彦広斉氏も自身の状況を話した。
「高校生の方は中高一貫の私立校に通っており、中学校の時からタブレット端末のiPadを使った授業を行っていたため、4月からも通常通り授業が行えていた。ライブ配信の遠隔授業を行ったり画面共有して教師が指導したりするなど、休業中でもスムーズに授業が行えていた。一方で中学生の方は公立校に通っている。学校で1人1台の端末が整備されていないため、家庭に持ち帰って遠隔授業を実施することはできなかった」と、ICT環境の整備状況の差で休業期間中の対応が大きく異なったことを語った。

 神奈川県の逗子市市議会議長の丸山治章議員は、「行政の立場から言うと、教育委員会や学校や教員は子どもたちのために頑張って、あれもやりたい、これもやりたいと考えていたのは確かだ。だが、個々の学校の置かれた環境は大きく異なり、児童・生徒全員に平等に環境を提供していこうとして実際にはできないことも多く、結果的に3カ月近くほったらかしになってしまった」と学校現場の混乱した状況を語った。

平時とは異なる「ICT活用の学び」への切り替えを

 メディアの立場で、学校休業中の状況を取材してきた日経BPコンシューマーメディア局の中野淳局長補佐は、「子供たちが登校できない状況でも、ICTを利用したオンライン授業などで、学びを継続することができる。しかし、ネット接続や情報端末の環境の問題で、こうした学びに対応できない家庭がある。このため、教育の機会均等を理由に、オンライン授業などを実施しない学校もある。『今は非常時なので、平常時とは異なる判断が必要。まずは、あらゆるICTを活用して児童・生徒の学びを確保する。その上で、ICTを活用できない家庭に対して、個別に十分なサポートを実施する』という考えで進めるべきだが、現実にはうまくいかないことも多いだろう。こうした判断を教育現場の校長や教員に強いるのは酷だ。首長の理解や支援の下で、教育行政の独立性の観点から教育委員会が判断すべき」と問題を提起した。

 学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊氏も研究者の立場から、「日本の教育は、自律的な学習者(児童・生徒)を育てることができたのだろうか。自分で勉強する時間を作ることができる子どもは自律して学べたが、そうでない子供も多かった。一方で、教育行政や学校は、子供や教職員の生活の質に無関心な面もあるのではないか。例えば学校が再開されて、土曜授業が増えたり、夏季休業を短縮して授業時間を確保したりする動きがあるが、本当にそれだけでいいのか。また、教育行政や学校も今回の事態で思考や問題解決を避けてしまったのではないか。感染リスクがあるからと全ての行事を中止して、代替案を提示しないなどはその例だ。せっかくGIGAスクール構想で端末やネットワーク環境が整備されても、授業の中身や教員の資質が向上しないと、良い学びにはつながらないのではないか」と、学校の課題を指摘した。

 横浜市立南本宿小学校校長の西尾琢郎氏は、学校を運営する立場から、「今回、コロナ禍の状況下で学校が抱える課題が見えてきた。各学校が事態に対応しようとやっていることは、災害が起きた最中に避難訓練をしているようなもの。本来はコロナ禍でも学校がすぐに対応できるように、もっと先に進んでいるべきだった。学校現場や教育委員会には横並びや指示待ちの意識が強いのは確かだが、今回は学校現場が苦闘して対応してきたことは事実。だが、それがうまく機能しなかったのはマインドセット(心の持ちよう)に問題があったのではないか。これまで学校教育では携帯電話を禁止したりICT機器の利用を制限したりするなど、ICT環境から遠ざけようという考えだった。例えば、不祥事が起きないように、発生原因となるLINEやスマートフォンの使用を禁止する流れなどはその例だ。ICTを教育の中で活用しようという教師に対しても、負の圧力になってしまっている。今回コロナ禍で一番苦労したのは、教員の考え方を切り替え、保護者の考えを切り替えることだった」と苦労を話した。

 文部科学省初等中等教育局視学官の安彦広斉氏は、文部科学省で初等中等教育を担当する立場から「災害が起きた時に学校がどう事業継続していくかはマニュアルを作成するが、教育をどう維持継続するかはきちんと考えられていなかった。これまで教員の校務用パソコンは自宅には持ち帰れないとか、学校ではインターネットにつなげないなどいろいろな規制があった。GIGAスクール構想以前でも、交付税措置により学校のICT環境を整備する流れはあったが、こうした自治体の予算が教員のICTリテラシーを高めたり、働き方を改善したりするために使われていたのか、こうした問題が今回のコロナ禍で一気に浮き彫りになった」と話す。

在宅利用も前提に、ICT環境の整備が必要

 兵庫県の姫路市教育委員会総合教育センター指導主事の坂田怜輝氏は、教育委員会で今回の休校措置にどう対応してきたかを説明した。
「コロナ禍では全てが手探りで、その場その場で対応せざるを得なかった。姫路市では昨年度Chromebook端末を導入し、今回のコロナ禍で学校と家庭をつなぐ手段として、Googleアカウントを発行した。ログインできない保護者も多く、トラブルも発生したが、まずできるところからやった。これから学びが大きく変わっていく中で、子供1人ひとりの学習状況をしっかり把握し、対応していくことが必要になる。学校のICT活用に関しても、学校で専任のICT担当者を置くよりも教科に担当教員を置いて教科でICTを活用できるようにすることを提案している」。

 埼玉県の鴻巣市教育委員会教育部教育総務課の新井亮裕氏は、学校に整備されるICT環境とその利用の仕方について語った。
「校内ネットワークを整備する上で、無線LAN(WiFi)とモバイル通信(LTE)のどちらを選択するかは、教室数や児童・生徒数でどちらの方がコスト的なメリットがあるかで大きく変わってくる。鴻巣市ではGIGAスクール構想を受けて、WiFi対応の端末とネットワークを整備することにしたが、自宅への持ち帰りや校外活動を考えるとLTE対応の方が自由度は高い。学校のコンピューター端末の自宅への持ち帰りは課題の一つだ。学校を一歩外に出ると、デジタル機器があふれかえっているにもかかわらず、学校ではICT環境がないということで使い方などを教えてこなかった。自宅に端末を持ち帰って学習をする前提として、使い方などをきちんと教育した上で子どもたちに行動規範を持たせて使わせるのは学校の役割なのではないか」。

 ファシリテーターの豊福氏はこれまでの議論を受けて、「ICTに関しては、教員も児童・生徒と同じ学び手として一緒に学んで取り組んでいくことに可能性を感じている。一方で、学校の校務パソコンやデータを自宅に持ち帰れないなど大きな課題も残っている。今回のコロナ禍は学校が抱える問題点を浮き彫りにしたと言える。こうしたさまざまなことをどう解決していくかが今後の課題であり、それを考える良いきっかけになった」とまとめた。