新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、全国で2020年4月の新学期から学生へのオリエンテーションや対面型の授業を取りやめ、遠隔授業に踏み切る大学が相次いだ。5月中旬以降に緊急事態宣言が解除され始めたことで、6月からは対面授業を実施する大学が増えているが、全面的な再開にはほど遠い。
 そんな中、熊本大学ではオンライン会議サービスの「Zoom」を使った遠隔授業に取り組み、学生の学びを止めない仕組みの構築を積極的に進めている。4月1日に理事・副学長に就任し、同大のCIO(最高情報責任者)としてコロナ禍のICT利活用を主導する宇佐川毅氏に聞いた。

――新型コロナウイルスの感染症拡大で、大学運営にも多大な影響が出たと思います。これまでの経緯を教えてください。

 新型コロナウイルス感染症の対策会議を2020年1月下旬から開催してきました。その当時、私はまだ工学部長でしたが、3月27日に感染症対策でICT支援体制について、市川聡夫理事・副学長(当時は理学部長)らと打ち合わせをしました。

 この際、2016年4月14日に発生した熊本地震による災害下での状況と、今回の新型コロナウイルスの感染症拡大の状況との違いを確認し、何ができるかを検討しました。

 熊本地震の時は、市川さんも私もそれぞれ学部長になったばかりでしたが、幸いにも新学期になって1回目の授業は実施できていました。1800人の学生全員に、必修科目で大学のポータルサイトにログインして、学務系の情報システムや学習管理システム(LMS)の「Moodle」などにシングルサインオン(SSO)で利用できるよう講習が済んでいたいのです。

 当時は入学したばかりの1年生の連絡システムは確立できていませんでしたが、地震後に大学のインフラなど基盤を管理している総合情報統括センターが、SSOした学生のアクセスログを利用した安否確認システムの開発にすぐに乗り出して3日間で立ち上げてくれました。

 ところが今回は、新学期早々から入学式が取りやめになって授業も休講となったため、熊本地震の時と同じやり方はできませんでした。授業は、一部の学部では4月21日から遠隔授業で再開、全学では大型連休明けの5月7日から遠隔授業を始めるという方針になったので、2020年は2週間かけてじっくりオリエンテーションを行うことにしました。さすがに対面でないと教えるのが難しい点もあったので、3密を避けるために利用席数を半分にしたうえで受講時間も半分にし、大学の新入生や大学院生、転入生にもSSOのやり方などを講習しました。

 4月1日には私が副学長に就任し、CIOの役割も担うことになったので、すぐに授業で使うビデオ会議システム「Zoom」の導入準備に入りました。

熊本大学 理事・副学長の宇佐川毅氏。CIO(最高情報責任者)として、ICT利活用も主導している

――Zoomを使う際のセキュリティはどう担保したのですか。

 当初は教員も学生もZoomに慣れていないので、まず使えるようにすることを最優先して、URLにパスワードを埋め込んで、リンクをクリックすればすぐにZoomで受講ができるようにしました。

 1カ月後にはセキュリティを高めるため、パスワードを埋め込むのをやめて、Moodleの中にパスワードと会議IDを記載するように変えました。

――熊本大学では、全ての科目がMoodleを利用するようになっていたのですか。

 Moodleでしっかり授業のコンテンツを作っているのは、2019年度の状況で約6000科目のうち500科目くらいでした。本学では2003年くらいから学務情報システムの運用を始めていましたが、2004年にeラーニングシステム「WebCT」で履修登録やシラバス、コンテンツLMSを立ち上げました。WebCTからMoodleへ完全移行したのは2013年の後学期からです。

――Zoomでの遠隔授業は円滑に進んだのですか。

 全学で授業を開始したのは5月の大型連休明けですが、その前にコンテンツの使い方の講習会を実施しました。4月10日には教職員に向けてZoomで講習会を実施し、4月17日にはZoomのヘルプデスクを開設しました。

 Zoomに慣れていない教員もいましたが、学生の立場でどうすれば受講しやすいかという視点で講習を行い、Zoomの使い方に慣れてもらいました。

 ヘルプデスクには、6月30日時点で教員や学生や非常勤講師などから1400件の問い合わせがあり、私自身が回答しています。ヘルプデスクを担当すると、教員や学生が何に困っているか、例えばZoomの使い方やシステムに接続できないなどを把握できます。こちら側では当たり前と考えていることでもトラブルが起きている場合もあり、解決するためのアクションを起こす上で、とても役に立ちました。