プライバシーに最大の配慮

 COCOAの仕様は、プライバシーに最大限配慮したものになっています。COCOAの利用開始に当たって個人情報を入力することはありませんし、位置情報も取得されません。またデバイスを特定するようなIDも使いません。

 たとえ端末から情報が盗まれたとしても、得られるのは過去14日間以内の日次鍵と、自分と接触したデバイスと交換した接触符号だけです。

 接触符号は相手の日次鍵から計算されますが、その計算には不可逆のハッシュ関数が用いられているので、接触符号から日次鍵(ひいては接触相手の情報)を得ることは不可能です。結局はCOCOAの情報から個人情報を得ることはできないようになっています。

 実は、この仕組みはCOCOAが独自に開発したものではなく、米Google社と米Apple社が共同開発した「Exposure Notification」というAPIに依存しています。OS(AndroidまたはiOS)のExposure Notification機能をオンにすると、BLEを使った接触管理などはOS側で実行してくれます。

 この方式では、誰と誰がどのように接触したのかアプリでは把握できないようになっています。さらに利用にも陽性者の登録にも本人の同意が必要になっています。

 逆に言えば、接触確認アプリは陽性判定を受けた人が自発的に登録した場合に限って、過去に接触して感染の可能性がある人に対して通知を表示することしかできません。言い換えれば、参加者の自覚的な行動がなければ、せっかくの感染確認アプリの仕組みを「阻害」できるということです。

 仮に住所や電話番号などの個人情報を取れば、あるいは利用や登録を法律や条例などなんらかの方法で義務化すれば、もっと強制力のある措置が可能で、より強力に感染拡大を阻止できます。

 実際に、シンガポール、オーストラリア、カタールなどでは個人情報も収集する独自の接触確認アプリを採用しています(表1)。これらのアプリは電話番号や国民IDなどを登録することになっているので、感染者との接触が確認されたユーザーに対して、直接検査を依頼できるようになっています。逆に言うと、それだけプライバシーが侵害されているわけですが、国民の安全のためにはプライバシーはある程度制限されてもしかたがないというのも一つの考え方です。

表1 各国の接触確認アプリ

COCOAのその後

 COCOAは2020年6月19日にリリースされましたが、その展開は最初からバタバタしました。派手なプレスリリースが打たれて「今日から使えます」と発表されたものの、Google Play Storeではなかなか使えるようにならず、多くに人がインストールできるようになったのは、ようやく次の日になってからでした。

 また、実際にインストールして使ってみた人からも、不具合の報告が相次ぎ、Twitterなどでも「使えない」「不安だからアンインストールした」などの発言が散見されました。

 しかし、多くの人にとって接触確認アプリの当面の主要な機能は、「インストールしてOSのExposureNotification APIをオンにする」というものだけでしたから、最初の時点ではインストールして初回の起動をすればそれで十分だったのです。

 それでもリリース直後から不具合が連続して報道されたことにより、COCOA(とその開発陣)に対する信頼性が低下したのは確かです。

 不幸だったのは、多くの人がCOCOAのことを「国が予算を組んで発注し、開発されたアプリケーション」であると認識したにもかかわらず、実際にはその主要部分はOSSとして開発されていたことです。

 そういう事情が伝わらないまま、COCOAをおとしめる雰囲気が蔓延したネット上では、オープンソースプロジェクトのリーダーであったプログラマーにまで批判が集中しました。

 結局、彼はリリース2日後に、

 この件でコミュニティーはメンタル共に破綻しました

とツイートし(現在は削除済)、プロジェクトからの引退をほのめかしました。GitHubのログを見る限り、実際にはまだ開発を継続していらっしゃいますが、少なくともリリース直後の集中的な批判はかなりメンタルにダメージを与えたものと想像できます。

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