2021年8月5日と6日の両日、インテックス大阪(大阪市住之江区)で「第6回 関西教育ICT展」が開催された。会場では、学校教育でのICT活用、デジタル教科書の現状などについて、教育分野の有識者によるセミナーが開かれた。

 8月5日に開催されたセミナーの一つが「子供一人一人の学びを支える一人1台端末の活用」。東京学芸大学教育学部准教授の高橋純氏が、個別最適な学びや授業でICTを円滑に活用する方法などについて講演した。

個別最適な学びなどについて講演した東京学芸大学教育学部准教授の高橋純氏

 授業例では、愛知県春日井市立高森台中学校の長縄正芳教諭のICTを活用した授業実践を紹介した。GIGAスクールにより生徒それぞれに配備された端末を使い、授業単元の目標や評価、学習手順を学習管理システム(LMS)で共有し、動画や資料を生徒が自分のペースで繰り返し学習できるようにしたことで、生徒同士の対話や協働作業の時間が増えていったという。

東京学芸大学准教授の高橋氏は、ICT環境やデジタル端末を活用することで個別最適な学びを実現する事例などを紹介した
出所:講演資料

 ICT環境を活用することで、それぞれの生徒の目標を設定し、学ぶ内容や学習方法などを最適なやり方で進め、生徒同士が協力したり助け合ったりする協働的な学びを実現できる。教員は生徒の学習状況をICTにより把握することで、授業の成果やふり返りも個々の生徒に合わせて行えるようになる。高橋氏は、単純な知識を伝達していくような授業は動画に置き換わっていき、時間や場所を共有することで実現できる授業の工夫が必要になるのではないかと説明した。

AI教育の現状と進め方を議論

 また同日、大学・高等専門学校での「AI(人工知能)教育」をテーマにしたパネルディスカッション「これからの教育機関に求められる『AI基礎教育』の進め方」が開催された。

 日経BPコンシューマーメディアユニットの中野淳ユニット長補佐がコーディネーターを務め、文部科学省の前高等教育局専門教育課企画官(8月に別部署に異動)の服部正氏、関西学院大学 副学長 情報化推進機構機構長/工学部 情報工学課程教授の巳波弘佳氏、数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム特別委員会委員の孝忠大輔氏の3人のパネリストが、AI教育の最新事情や実践事例、導入方法を解説した。

「これからの教育機関に求められる『AI基礎教育』の進め方」のパネリストを務めた文部科学省の服部氏(右)、関西学院大学の巳波氏(中央)、数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムの孝忠氏(左)

 文部科学省の服部氏は、政府が2019年6月にまとめた「AI戦略2019」の教育改革について紹介した。デジタル社会の「読み・書き・そろばん」とも言える「数理・データサイエンス・AI」の基礎などの必要な力を全国民が育み、あらゆる社会分野で人材が活躍するため、2025年を目標に大学・高専卒業者50万人が初級レベルの能力を取得できるようにする。さらに、大学・高専卒業者の半分に当たる25万人は、自らの専門分野への応用基礎力を身に付けられるようにする。

「AI戦略2019」の教育改革では、2025年を目標に大学・高専卒業者50万人が初級レベルの能力を取得できるようにする。大学・高専卒業者の半分に当たる25万人は、自らの専門分野への応用基礎力を身に付けられるようにする
出所:講演資料

 文部科学省は、全ての大学・高専の正規課程のうち優れた教育プログラムを認定する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」(MDASH認定)を策定。全学で開講するAI授業プログラムを対象に、教育内容や学生の履修率などに応じて「認定教育プログラム (MDASH-Literacy)」と「認定教育プログラム プラス (MDASH-Literacy+)」を認定する。

 服部氏は2021年8月4日に、文部科学省が新たに67件の大学、高等専門学校などのプログラムを認定したことを紹介した。認定済みの11件と合わせて78件が認定されたことになる。認定プログラムのうち、先導的で独自の工夫・特色を持つ11件はMDASH-Literacy+に選定された。

 関西学院大学副学長の巳波氏は、同大が実践する文理横断型の「AI活用人材育成プログラム」を紹介した。2018年に日本IBMとAI共同プロジェクトを発足させ、全科目を新規開発した同プログラムを2019年4月に開講した。

関西学院大学は文理横断型の「AI活用人材育成プログラム」を2019年4月に開講した
出所:講演資料

 2021年度は、全てオンライン上で授業が完結するeラーニング「バーチャルラーニング」で入門科目を受講できるようにし、教員が直接指導する高度な演習や課題解決型学習(PBL)と組み合わせて、効率的な授業運営を進めることで、全学で多人数の学生が受講できる。

 入門科目の「 AI活用入門」は全学部から2000人を超える履修申込があり、男女比はほぼ半々。春学期中に85%の学生が受講科目を修了したという。7月からは、学内で受講するものと同じeラーニング・プログラムを学外にも提供を始め、企業や他大学での利用を進めていくとしている。

 数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム特別委員会委員の孝忠氏は、全国的なモデルとなる標準カリキュラムや教材について説明した。モデルカリキュラムは、コア学習科目を「1.導入」「2.基礎」「3.心得」に分け、オプションで「4.選択」科目を設けている。

数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムは、数理・データサイエンス・AIのリテラシーレベルのモデルカリキュラムを公開し、大学などが利用できるようにしている
出所:講演資料

 1.導入では、データ・AI利活用のための技術の概要や、現場でどのような価値が生まれているか、またAI利活用の最新動向を学ぶ。2.基礎では、データを適切に読み解く力を養い、データの内容を説明したり、扱ったりする力を育成する。3.心得では、データ・AIを利活用する上で知っておくべきことや守るべきことを理解する。4.選択のオプションでは統計や数理基礎、アルゴリズム基礎、データ構造とプログラム基礎、テキストや画像解析などを学べる。

 コーディネーターを務めた日経BPの中野ユニット長補佐は、AI基礎教育を導入する上で、既存のカリキュラムに組み込めるよう1~3回の授業で実践できる内容から取り組んでいくことを提案した。限られた授業時間で、実習を通じて機械学習やデータについて学べるようにすることで、生徒や学生のAIに対する興味を持たせることが必要などと話した。