ICT活用教育に関する研究発表などを実施するイベント「2020 PCカンファレンス」が、オンラインで2020年8月18日に始まった。PCカンファレンスはコンピュータ利用教育学会(CIEC)と全国大学生活協同組合連合会の主催で、8月18日から20日にかけて開催する。

 SDGs(持続可能な開発目標)やAI(人工知能)など世界規模で大きな変革が進むなか、未来を担う人づくりに向けて大学など高等教育機関と産業界が協働していくことが重要になっている。CIECでは新たな教育プログラムや教材、学習環境を開発・提供することが必要になっていく点に着目して「産学共同で切り開くこれからの教育・学習」を2020年のテーマとした。

 新型コロナウイルス感染症が収束しないため、今回はオンラインでの開催となった。8月18日に実施した基調講演などは京都府京田辺市の同志社大学京田辺キャンパスから配信した。基調講演1を行った滋賀大学データサイエンス学部の河本薫教授は、「データサイエンス教育における産学共同研究」と題して、大学が企業など産業界と連携して、どのように価値を創造していけばよいかについて講演した。

「データサイエンス教育における産学共同研究」をテーマに講演した河本滋賀大学データサイエンス学部教授
出所:PCカンファレンスのオンラインセミナーから

 河本教授は前職で大阪ガスのデータサイエンティストを務めていた経験を基に滋賀大学でデータサイエンスの研究・教育を行なっている。河本教授は、企業にとってデータ活用はビジネスに「役立つ」ことが重要である一方、大学にとっては研究などによって新しいことが「分かる」(発見する)のが重要視されると話し、産業界と大学との間に重視する内容にギャップがあることに触れた。その上で大学と企業が連携して新しい価値を創造していくためには、PBL(プロジェクトに基づく学習)を活用していくことが重要と説明した。

 PBLには大学間で競争するコンテスト参加型のものもあるが、企業連携型PBLでは学生がビジネスの全体の流れを学ぶことができ、学生自らデータ分析すべき課題を発見して実際に分析し、ビジネス視点をもって現場に説明をしていくといった実践的な学習ができるメリットがあると指摘した。

 一方で企業連携型PBLを実施するに当たって、受け入れ先の企業を確保する難しさがあるという。河本教授が実施した企業連携型PBLでは、100社の企業に声をかけて、興味を示したのは5社、実際にプロジェクトを実施できたのは2社だったという。さらに企業のデータを扱うには守秘義務を厳密に守り、受け入れ先企業のメリットを見つけた上で、授業のカリキュラム設計をする必要がある。また、研究終了後に研究データの削除が求められたり、学会での発表が制限されたりするなど、企業とPBLを実施していく難しさを語った。

 基調講演2では、京都大学経営管理大学院経営研究センター長の若林靖永教授(CIEC会長理事)が「産学共同から生まれる新しい教育の挑戦とその課題」と題して、これからの大学教育が持つべき新しい教育の視点について講演した。

「産学共同から生まれる新しい教育の挑戦とその課題」をテーマに講演した若林京都大学経営管理大学院経営研究センター長・教授
出所:PCカンファレンスのオンラインセミナーから

 若林教授は教育再生会議が2013年の「これからの大学教育等のあり方について(第三次提言)」で、大学教育の領域で産学官が連携して取り組み、イノベーションを創出する人材の育成と理工系人材の育成が急務であると提言したことを受けて、産学連携を進める必要性を話した。

 2020年3月31日に経団連が開催した「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」では、報告書「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」が取りまとめられ、来るべき「Society5.0」時代に求められる人材と大学教育の在り方を説いた。今後は文系・理系を問わず、基礎的なリテラシーの一つとして分析力、論理的文章表現力、論理的思考力、判断力などが求められ、リベラルアーツ(教養)教育の中で、産学連携による質の高いPBL型教育が求められると話した。

 新型コロナウイルスの感染症が拡大する中、全国ほとんどの大学が対面での授業を休止し、オンライン授業が実施されている。若林教授は、対面による授業実践ができないというデメリットだけを見るのではなく、オンライン授業の良い面を今後再開されることになる対面授業と組み合わせていくことが今後の学習環境で標準となるとし、オンライン経由で誰でもどこからでも学べる環境を作ることは大学教育にとって重要になっていくと話した。

 基調講演に続いて行われたシンポジウム1では「産学共同による教育実践の課題とその解決法」をテーマに、名古屋大学情報学研究科の中村泰之准教授(CIEC副会長理事)が司会を務め、基調講演を行った河本滋賀大学データサイエンス学部教授と若林京都大学経営管理大学院経営研究センター長・教授をパネリストに、同志社大学の宿久洋文化情報学部教授を交えて、今後の大学教育におけるPBLの実践と課題などについて討論をした。

 シンポジウム2では、武沢護 早稲田大学大学院客員教授兼早稲田大学高等学院教諭を司会に「検証『新型コロナ』休校! そのとき学校はどう動いたか-新たな学びの場の構築と充実-」と題して、斎藤勝帝京平成大学講師、平田義隆京都女子高等学校教諭、吉田賢史早稲田大学高等学院教諭の3人をパネリストに、新型コロナウイルスの感染拡大が起きて教育現場で混乱が起きた中、生徒・学生の学びの機会を確保する観点から学校現場でどのように新しい学びを実践していったかを紹介した。