教育再生実行会議の第12次提言ではデータ駆動型の教育への転換を促している。これまで聞いたことがなかった「データ駆動型の教育」が強調されたのは、国立情報学研究所(NII)所長である喜連川優氏の影響が大きい(図1)。かねて喜連川氏は、「医療がデータを基に薬の処方や手術などをしているように、デジタルを活用し、教育でもエビデンス(根拠・証拠)に基づく教育、データ駆動型教育を目指す時代となる」と主張している。

●デジタル化タスクフォースがデータ活用を提言
図1 教育再生実行会議は「デジタル化タスクフォース(TF)」を設け、教育のデジタル化について重点的に検討してきた。国立情報学研究所 所長の喜連川優氏(左)と東北大学大学院 教授・東京学芸大学大学院 教授の堀田龍也氏(右)はTFの構成員を務める

 東北大学大学院 教授・東京学芸大学大学院 教授の堀田龍也氏も、「2021年度はデータ駆動型教育に向かう年になる」と予想する。東北大学は2020年12月、大学院情報科学研究科に「ラーニングアナリティクス研究センター」を設置。堀田氏はそのセンター長も務める。センターでは、情報科学研究科が持つ幅広い学術分野を生かし、学習データや各種センサー情報の分析・可視化の方法などを研究するという。

エビデンスに基づく教育とは

 大学の枠を超えた動きとして、2021年5月に「エビデンス駆動型教育研究協議会」が設立された。代表理事はラーニングアナリティクス研究の第一人者である京都大学 学術情報メディアセンター 教授の緒方広明氏だ。エビデンス駆動型教育とは、「教育データを分析しエビデンスを得て、それを教員が共有することで教育を改善していくこと」(緒方氏)。データ駆動型とニュアンスは異なるが、目指す方向は同じだ。

 昨今、行政の分野では「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の必要性が叫ばれている。国や地方自治体の政策立案は、一部の人間の主張や検証していない前例に従うのではなく、統計や指標などの客観的なデータに基づいて決めるという、ごく当たり前の考え方だ。

 ところが、その当たり前が意外にできないことが多い。コロナ禍で話題になったワクチンの効果や副反応もその一例だ(図2左)。医療分野で薬の効果を厳密に確認するには、二重盲検法を用いたランダム化比較試験を実施する。臨床試験のデータによって、薬の有効性というエビデンスが得られ、副作用の確率なども明らかになる。

*二重盲検試験(ダブル・ブラインド・テスト)は、プラセボ効果を排除するため被治験者も実施者(医師など)にも薬か偽薬か知らせない比較試験。ランダム化比較試験は、対象に偏りが出ないように無作為に選んだ試験対象をグループに分けて比較する方法

教員の正当性を証明できる

 人は多くの場合、自分の経験や身近な人から聞いた話に判断を左右されやすい。データに基づくエビデンスより、エピソードの方を信じやすい傾向があると言われる。

 同じことは、教育の現場でも起こっている。緒方氏は、「これまでの教育はエビデンスに基づいていなかった。エビデンスに基づく教育に進まないと、1人1台の端末が整備されても、これまでの授業がパソコンの上に移るだけで何も変わらない」と指摘する。

 教育現場にデータやエビデンスはなじまないと考える向きもあるだろう。しかし、堀田氏は「データを有効利用して教員が自分の教え方の正当性を証明できる」と、そのメリットを説明する(図2右)。

●エピソードベースとエビデンスベース
図2 自分の経験や身近な人のエピソードを基に判断すると、思い込みに左右されがち。エビデンスを基に正しい判断を下すことが大事だ。他人に伝えるときも、エビデンスを示せれば説得力が増す。※数値は仮定による一例で現実とは異なる