コロナ禍によって、全国の大学が感染症対策で対面授業を減らして遠隔授業にシフトするなど、新しい教育の模索が続いている。2020年8月18日から20日にかけて、コンピュータ利用教育学会(CIEC)と全国大学生活協同組合連合会は、ICT活用教育に関する研究発表などを実施するイベント「2020 PCカンファレンス」を開催した。2020 PCカンファレンス 実行委員長の新関三希代氏(同志社大学副学長、教育支援機構長)、同副実行委員長の若林靖永氏(CIEC会長理事、京都大学経営管理大学院経営研究センター長・教授)、同副実行委員長の宿久洋氏(同志社大学文化情報学部教授)の3人に、大学での授業や研究の現状とこれからについて聞いた。(聞き手:中野 淳=コンシューマーメディア局長補佐、文中は敬称略)

ーー新型コロナウイルス感染症が収束しないなか、授業の進め方や学会活動はどのように対応していますか。

新関:同志社大学では、例えば京都府の方針や、政府の緊急事態宣言の状況など感染のフェーズごとに教育活動、研究活動の対応方針を決めています。文部科学省の好事例として紹介されています。校内でのカンファレンスなどの活動については、3密を避けて実施するなどの一部の例外はありますが、基本的にはオンライン開催にすることを決めました。感染のフェーズが変われば対応も変えていきます。本学では、春学期の授業は全てオンライン開催にしました。秋学期以降はオンラインの遠隔授業と対面を併用していきます。今後、コロナ禍が収束したとしても、学生が密集するような大規模な対面授業を実施するのは難しいので、オンライン授業と対面授業を併用していくことになるでしょう。

2020 PCカンファレンス 実行委員長の新関三希代氏(同志社大学副学長、教育支援機構長)

若林:オンライン授業には良い面もあります。例えば文系の学部では、受講学生が1000人規模の大規模な授業もあります。同じ教員が複数回、同じ内容の講義を行う講座もあります。オンラインならまとめて大人数に対して講義が行えます。いろいろ課題はありますが、オンライン授業のメリットを生かしていく必要があると感じています。

宿久:本学ではLMS(学習管理システム)を導入しています。今回のコロナ禍でLMSを全面的に使って試験を実施します。今後はLMSの活用が進むと思います。

新関:秋学期以降はオンライン授業と対面授業を併用します。学生によっては一時限目は対面授業、二時限目はオンライン授業、三時限目は対面授業というスケジュールも出てきます。そのため、学内からオンライン授業を受けられるような無線LAN(Wi-Fi)環境が整った自習室も整備する必要があります。2021年に向けては対面授業をメインにしてオンライン授業も実施するなど、やり方を検討しているところです。

若林:多くの教員はコロナ禍が収束した後は、以前のように対面授業に戻りたいというのが本音かもしれません。ただ、対面授業に戻ったとしても、オンライン授業にはさまざまな良さがあることは確かです。今後はどのようにオンライン授業と対面授業を併用していくか模索していくことになると思います。

2020 PCカンファレンス 副実行委員長の若林靖永氏(CIEC会長理事、京都大学経営管理大学院経営研究センター長・教授)

宿久:これまでも本学のような関西圏の大学に、講師に東京から来て講義してもらうことがありました。オンライン授業であれば、コスト的にも利便性の面でもハードルはぐっと下がると思います。オンラインであれば、海外の研究者にも講演を引き受けてもらいやすいというメリットがあります。例えば本学はドイツのテュービンゲン大学構内にEUキャンパスを設けています。現地で講演を行うことはこれまでもあったのですが、ドイツだとEU域内から研究者などを呼びやすいので、EUキャンパスからオンラインで日本の聴衆に講義を行ってもらうこともやりやすくなるでしょう。

ーー研究活動についてはいかがですか。

新関:学会活動は、ほぼオンラインでの開催になりました。研究活動も出張を伴う活動はなくなりました。一方でミーティングに関してはやりやすくなった部分があります。企業の方とのミーティングなどはかえってやりやすい側面があります。

若林:どうしても対面でやる必要のある研究活動もありますが、今後はオンラインでミーティングを行ったり、メールでやり取りしたりなど、最適な組み合わせを考えていくようになるのではないでしょうか。

宿久:企業と連携して進める研究では、コミュニケーションが取りやすくなった面もあれば、やりにくくなった面もあります。企業も現在の状況に慣れていないので、ケースバイケースです。例えば、今はインターンシップの受け入れ時期です。オンラインでもインターンを受け入れる企業もあれば、対面を前提に考えている企業もあります。研究活動は、これまでも確立したやり方があったわけではありません。企業も大学も余裕がなくなっていて、研究が進みにくくなった面もあります。これまでの活動を継続していくのに精一杯で、新しい研究を始めるにはハードルが上がったように感じます。

2020 PCカンファレンス 副実行委員長の宿久洋氏(同志社大学文化情報学部教授)

ーーそうした中で、今後の産学連携の研究活動はどうなるのがよいでしょうか。

宿久:新しい研究を始めるために、企業と大学をマッチングするようなプラットフォームのような仕組みが必要だと感じます。今でもコンソーシアムのような形はあるのですが、企業と大学をマッチングしたり、研究資金を調達したりなどの仕組みづくりが重要です。従来は属人的な人脈で研究者が企業と共同研究をすることが多かったように感じますが、スタンダードな仕組みづくりが必要でしょう。

ーー今回のPCカンファレンスは、オンラインでの開催になりました。

若林:CIECでは2020年3月に研究発表中心の春季カンファレンスを開催しました。新型コロナウイルス感染症が拡大したことを受け、2月時点で急きょオンライン開催に変えました。その後も夏季の全国大会については対面での開催を模索してきました。会場となる同志社大学や大学生協の支援で準備してきたイベントなので、対面で行いたかったのは確かです。ただ、大規模なイベントのため、多くの参加者や登壇者の都合や会場の準備などを考えると間際に開催方法を変更するのは難しいと判断し、中止や延期ではなく、オンラインでもきちんと実施することが重要と判断し、5月にオンライン開催にすることを決めました。

ーーオンラインでイベントを開催する苦労はありましたか。

若林:まずオンラインでイベントを開催することは難しかったです。大学のゼミのように、誰が出席しているか分かる双方向のオンライン授業であれば、30人程度でも学生の表情を見て真剣に聞いているのか、そうでないのかを見分けることができます。ところが、今回はWeb型のオンラインセミナーなので参加者の顔が見えません。基調講演は同志社大学の講堂から配信したのですが、講演をしていても誰に話をしているのか雲をつかむような感じでした。リアルタイムなチャットを通して何人かからは反応がありましたが、話していることがどう受け止められたのか手応えがつかめず不安でした。そういう意味では、ホールに参加者が集まって相手の反応が見える方が講演しやすいと感じます。

ーー教育現場でICT活用が急がれている現状において、CIECの役割をどう考えていますか。

若林:まず理解すべきなのは、学びの「スタンダード」が変わったということです。コロナ前は遠隔授業の取り組みは大学の組織としてはほとんど行われてきませんでした。コロナ禍を受けて、大学教育でICTを活用することがスタンダードになりました。オンライン授業と対面授業を併用(ハイブリッド)または融合(ブレンデッド)させて授業のやり方を変えていく、あるいはいろいろな事情で参加できない学生のためにオンライン参加も可能にする、といった流れが出てくるでしょう。反転授業のやり方で、講義動画はあらかじめ学生が見ておいて、対面授業ではアクティブラーニングとしてディスカッション中心に行うというやり方もあります。オンライン授業と対面授業を組み合わせて大学教育をどう変えていくか、学びの「ニュースタンダード」をつくっていく必要があるでしょう。